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研究ハイライト

森からメタンガスが出ている?

京都大学 大学院 農学研究科
森林科学専攻 森林利用学研究室

持留 匠

私たちは,森林とメタンについて調べています。

森林には様々な機能があります。例えば,木材を生産する機能,おいしい水や空気を作る機能,いろいろな動植物に住みかをあたえる機能などが挙げられます。なかでも,光合成によって二酸化炭素を吸収して木材として蓄積する機能は,地球温暖化を抑制するため重要だと考えられています。

しかし最近の研究で,木の幹からメタンガスが放出されている,という現象が報告されました。メタンも温室効果ガスですが,1分子あたりの温室効果は二酸化炭素の20倍ほど大きいと言われています。もし光合成による二酸化炭素の吸収量に匹敵するようなメタンの放出があったとしたら,これを見過ごすわけにはいきません。芦生の森でも,たくさんの樹種を対象に幹からのメタンの放出を測定することにしました。

昨年は,林内の13の樹種からの幹メタン放出を測定しました。メタンは酸素のない環境を好む古細菌によって,幹の中で作られている可能性があります。その場合,幹の直径が大きいほど活動が盛んだと考えられるため,特に大きな木を選んで対象にしました。13もの樹種の,それも大木と呼べるような木々を対象に研究ができるのは,古い森が多く残る芦生研究林ならではと言えるでしょう。

今年の測定では,手の届く高さだけでなく,高さ10mを超えるような幹の上部や,枝葉からのメタン放出も調べることにしました。そのために高所作業車をレンタルしたのですが,私たちは高所作業車を操縦する免許を持っていません。そこで,免許を持つ芦生研究林の技術職員さんに全面的にサポートしていただきました。高い技能や経験を持った職員さんがサポートしていただけるというのは,研究をするうえでとても心強いことです。お世話になった方々に,この場を借りてお礼を申し上げます。

これまでの測定によって,芦生での樹木からのメタン放出は光合成による二酸化炭素の吸収に比べれば,とても小さい量であることがわかってきました。また,放出に至るまでのプロセスや,場所や時間によって放出速度がどのようにばらつくか,ということも,少しずつ明らかにしている最中です。 これから収集したデータをまとめて,論文にして発表していきたいと考えています。これからも芦生研究林が森林研究の聖地として,充実した研究支援体制とともに脈々と受け継がれていくことを願っています。