森里海連環学に関する意見交換会 2016-10

2016年10月12日、森里海連環学に関する意見交換会を開催しました。


森里海連環学に関する意見交換会の記録

センター長 吉岡崇仁

【趣旨】
 フィールド科学教育研究センターが、森里海連環学の構築を掲げてから13年経った。2013年には10周年記念行事を執り行ったところである。この間、森里海連環学研究に関しては、2009年度に念願であった概算要求特別経費プロジェクトが採択され、「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(略称:木文化プロジェクト)」に取り組んできた。2013年にプロジェクトは終了したが、現在も論文等の公表が続いている。大学教育においては、全学共通教育への森里海連環学の講義・実習、ポケゼミ(現ILASセミナー)を多数提供しており、その成果が認められて、2016年度からは、全学共通教育の統合科学科目群の中に「森里海連環学分野」が新たに設けられた。これはひとえに、フィールド研の教員のみなさんの積極的な科目提供とフィールド施設の技術職員、事務職員のみなさんの多大なご支援の賜物と感謝する次第である。また、公益財団法人日本財団からは、フィールド研設置以来、全学共通教育への森里海連環学科目提供に当たって多大なご支援をいただいてきた。2012年度には、大学院教育に主軸を移し、京都大学学際融合教育研究推進センターに森里海連環学教育ユニットを設置することとなった。このように、フィールド研が掲げてきた森里海連環学は、教職員の努力と京都大学および日本財団からの支援により、教育と研究の両面で進めてくることができた。
 一方で、学問としての森里海連環学は未だ黎明期を脱しているとは言い難く、教員においてもそれぞれの解釈で教育と研究を進めている段階に踏みとどまっている。森里海連環学に関する日本語の教科書2冊、英語の教科書1冊を上梓したが、各章、各節のつながりは希薄で、森里海連環学の幹をつかむことが難しいというのが実感であろう。木文化プロジェクト実施期間中にも、「森里海連環学とは何か」を問う意見交換の場を設けようとしたが、日々の調査・解析に追われてしまい、実現していない。その後も森里海連環学に関わる研究プロジェクトは、個々の教員の科研費その他の外部資金によって継続されているが、概算要求の仕組みが変わったことから、部局としての取組みは、木文化プロジェクト終了後企画されていない。また、森里海連環学教育ユニットによって推進されてきた教育プログラムも2017年度に終了を迎え、2018年度からはまた新たな取組みが始まろうとしている。
 この機会に、改めてフィールド研全体で森里海連環学を見つめ直すために、「森里海連環学に関する意見交換会」を開催することとした。フィールド研の第4期中期目標中期計画の策定や森里海連環学教育ユニットの第3期計画の構想につなげられるよう、活発な議論を期待したい。

【プログラム】
 日時:平成28年10月12日(水) 16:00〜19:00
 場所:フィールド研第1会議室(N283)および第2会議室(N285)
 内容:
 16:00〜16:35 話題提供1 吉岡崇仁「木文化由良川プロジェクトの成果と森里海連環学」
 16:35〜17:10 話題提供2 山下洋 「国東半島プロジェクトの成果と森里海連環学」
 17:10〜17:45 話題提供3 清水夏樹「教育ユニットにおける活動と森里海連環学」
 18:00〜19:00 総合討論  朝倉彰(司会)

【内容】
 教員会議の形であったが、研究員、学生・院生のほか、技術・事務職員にも出席していただき、隔地施設からのTV会議システムでの参加者を含めて約40名が参加した。話題提供で使用されたスライドは、HPより閲覧可能となっているので、参考にしていただきたい。

〇話題提供1「木文化由良川プロジェクトの成果と森里海連環学」
 部局として取り組んだ木文化プロジェクトのサブプロジェクトとして由良川流域で実施された由良川プロジェクトの成果を中心に発表があった。フィールド研の森里海連環学が生まれるに当たって重要な役割を果たした気仙沼の漁師畠山重篤氏らの「森は海の恋人」活動との関係で、溶存鉄と腐植物質の供給源について,調査結果が報告された。由良川流域における調査では、森は鉄を介した海の恋人には必ずしもなってないことが示唆された。

〇話題提供2「国東半島プロジェクトの成果と森里海連環学」
 現在科研費として進んでいる大分県国東半島でのクヌギ林、ため池、農地、水産業の連環を解明するプロジェクトについて紹介された。調査した宇佐地域では、森林から川と海に栄養塩類が供給されており、クヌギ林が優占する桂川における生物多様性と生産力に寄与していることが示された。

〇話題提供3「教育ユニットにおける活動と森里海連環学」
 森里海連環学教育ユニットにおける教育と研究の実践の中から、演者が考えた「森里海連環学についての疑問」が41個も投げかけられた。森里海連環学は、学際性のある新しく形成されつつある学問分野と位置づけられるが、フィールド研の専任教員の間でさえ、共通の理解が得られておらず、学問分野としての形ができていないとの指摘があった。また、英語の教科書を編集する中で、担当者が作成した森里海連環学に関わる要因連関図が紹介され、個人個人での理解が異なっていることが示された。教科書発刊から数年経つが、状況は今も変わっていないと思われる。

〇総合討論
 個別の話題提供に対する質問もあったが、「森里海連環学」のフレームワークに関わる質疑応答があった。以下に、特徴的な議論の例をあげる。

・一般性を求めるなら、メタ解析が必要ではないか。
・学術的には一般化が必要であろうが、問題解決への関心も高い。
・問題解決に向けた測定指標の明確化が課題。
・統合指標が必要である。
・課題解決か理論か(の二者択一)ではなく、両方やればいい。
・今までの研究で企業が出てこないことに違和感がある。
・森里海連環学研究の結果の受取手(活用先)は、教育ではないか?
・大きなスケールでは難しい。小スケールで一緒に研究した成功例がほしい。
・住民活動の効果について、科学的証拠を提示することに意味があるのではないか。
・森里海連環学は、神話・宗教と言われている(学術・科学にしないといけない)。
・森里海連環学と特に呼ばなくてもいい研究も多い。

 近年、森・里・川・海のつながりを意識した行政や市民の活動が増えている一方で、学術レベルでは、森里海連環学の真の姿は未だ明確ではない。この10年以上にわたって進んでいないとの意見もある。しかし、それは森里海連環学に限ったことではなく、学際研究、文理融合研究一般に言えることかもしれない。フィールド研がブレークスルーを達成する可能性は十分にある。
 種々の意見交換が活発に行われたが、引き続き検討を重ねる必要があろう。森里海連環学のあり方と将来像を構築するために、フィールド研と森里海連環学教育ユニットの全構成員に協力をお願いする次第である。