ILASセミナー報告2016「海産無脊椎動物の多様性」

基礎海洋生物学分野 講師 宮﨑 勝己


 このセミナーは、海産無脊椎動物の分類群と形態の多様性について、理解を深めていくことを目的に行うものである。形式としては、従来のポケゼミと同様、京都での2回の講義と、瀬戸臨海実験所における3泊4日の臨海実習での採集・観察の組み合わせで行った。今年度の参加者は4名で、その内訳は理学部2名、薬学部1名、農学部1名となり、男女比は3名:1名であった。
 2回の講義は、いずれもフィールド研会議室にて放課後の時間帯に行った。4月13日に行った第1回目の講義では、オリエンテーションとして各自の自己紹介の後、セミナー全体の概要説明を行い、志望動機や連絡先などの記入と提出をさせた。また例年通り、ある英語の海洋生物学の教科書の一部を抜き出し、その和訳を宿題として課した。2回目の講義は一週間後の4月20日に行い、海の動物の多様性に関する講義を行った後、実習に関する説明を行い、最後に前回課した宿題を回収した。
 実習は、4月28日から5月1日の3泊4日の日程で行った。例年この実習は7月の海の日を含んだ日程、もしくは8月か9月の夏期休業期間中に行ってきたが、今回は宮﨑の現任地への転出が6月末日になる可能性があったため(実際そうなった)、この日程とした。初日は通常授業がある平日であり、5限目に授業がある学生がいたため、大阪方面からの最終の特急で集合しオリエンテーションのみ行った。二日目午前は所内見学の後、水族館の展示生物について、その種類と分類学的位置について調査を行った。この日の午後は番所崎での磯採集を行った。この日の干潮は午後4時過ぎでしかも引きが悪くあまり条件はよくなかったが、天候には恵まれると共に、ここ数年続いていた台風の影響は当然ながら全く無かった。三日目は潮の条件がさらに悪くなるため、前年度も行った実験所海洋観測研究実習船ヤンチナの船着き場浮き桟橋での付着生物の採集を行った。その後は採集した動物の同定とレポート作成を進め、最終日の午前中に宿泊棟及び実習室の片付けと掃除を行い、レポートの提出をもって終了・解散した。
 今回はこちらの都合で例年より早い日程で、しかも実習に関しては潮の条件があまり良くない時期に設定せざるを得なかったことで、受講生には迷惑をかけてしまったが、結果的には、例年とほぼ同程度の数の上位分類群(門や綱)の多様性を見出すことが出来た。
 私は、2005年度からほぼ同形式で本セミナーを担当してきたが、毎回日程調整には悩まされてきた。すなわち参加者全員の都合と、潮汐の条件とがなかなかうまく合わない上、ここ数年はほぼ毎年台風の影響により日程変更や規模の縮小を余儀なくされてきた。臨海実験所周辺は潮汐の差が大きく、紀伊半島南部は場所柄台風の影響を受けやすいことから、この悩みは仕方の無いところだが、潮汐や海況の影響を受けない水族館の利用や走査型電子顕微鏡の活用(今回は故障のため使用できなかった)などにより、どの年度もセミナーとしての目的は概ね達成できたものと自負している。また安全を優先させたことで、結果として野外での実体験が不十分となってしまった年度もあったが、野外実習において最優先させるべきは参加者の安全(健康も含めて)であるし、自然を相手とした実習では必ずしも我々の思い通りには事が進まないことを実体験できたのには、それなりに意義があったものと思われる。フィールド研では今後もフィールドに依拠した各種ILASセミナーが実施されていくことであろうが、これからもどうか事故を起こすことなく、一人でも多くの一回生にフィールド活動の面白さと厳しさを伝えると共に、大学生としてのあるべき姿を改めて考える場として発展して欲しいと願うものである。