実習報告2016 「森里海連環学実習IV:沿岸域生態系に与える陸・川・人の影響」

基礎海洋生物学分野 教授 朝倉 彰


 沿岸域とは海岸線を挟んで海と陸とがせめぎ合っている場所であり、そこに住む海の生物が形作る生態系には、陸域やそこに住む人間、また山から注ぎ込む川の影響が顕著である。瀬戸臨海実験所は紀伊半島南西部に位置し、黒潮の影響から海洋生物の多様性が非常に高い。特に実験所北側に広がる田辺湾は、様々な底質環境が見られると共に、大小いくつかの川が注ぎ、田辺市・白浜町という小都市が面していて、河川の影響も大きい。そこで本実習は、こうした立地条件を生かして、河川から海にいたる様々な場所の生物とその環境条件を調べることによって、森里海と連環と生物の棲み分けについての理解をすることを目的とした。参加は全学共通科目としての本実習で10名(理6、農1、医1、文1、工1)、特別聴講学生1(琉球大)、抱き合わせの公開臨海実習(沿岸域生態系多様性実習)として8名(宮﨑大1、東大2、京大2、金沢大1、東海大1、放送大1)であった。
 場所としては、和歌山県田辺市、上富田町、白浜町を流れる富田川およびその支流の高瀬川、そしてその川が注ぎ込む田辺湾を選んだ。高瀬川において、上流、中流、下流のマクロベントスを採集し、環境条件としての水質の調査を行った。また高瀬川河口域にほど近い対の浦での磯での調査を行った。高瀬川で採集された生物の大半は水生昆虫(幼虫)で、ほかに淡水エビやハゼなどの魚が採集された。また河川と海を行き来する回遊性のエビも採集された。河口域では汽水•干潟性のカニや軟体動物が多く、対の浦では紀伊半島の岩礁で典型的に見られる軟体動物、甲殻類、棘皮動物が見られた。河川から海洋にいたる環境条件の変化とそれにともなう生物相の変化について、議論を行った。
 この実習は全学共通科目の改変に伴って今回新たに出来た実習であったが、1回目の実習としては、うまく行ったように思う。今後さらに「連環」という立場をより取り入れて、よりよい実習としていきたい。