実習報告2015「公開森林実習 近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴」

芦生研究林・上賀茂試験地および北白川試験地において、「京都大学公開森林実習-近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴-」を実施しました(公開実習、特別聴講学生2人・一般聴講学生8人)。

-近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴-
Field Practices in Kyoto University Forest- Characteristics of Forest landscape of “Okuyama”and “Satoyama” in the Kinki district –

対象学生:他大学の全学部、主として2・3年次生対象。
担当教員:吉岡崇仁・嵜元道徳・德地直子・伊勢武史・坂野上なお
協 力 者:藤原誉(田歌舎代表)、中坂昭(株式会社北桑木材センター会長)

実習内容:上賀茂試験地における近畿地方中部の里山の特徴を有する都市近郊林の自然植生とナラ枯れ・マツ枯れ被害、マツ類を中心とする外国産樹種とその特徴、芦生研究林における日本海側の多雪地帯の要素を有する原生的森林植生とシカによる食害による植生の変化、由良川源流域の水質調査について、講義と実習を通して学んだ。また南丹市美山町北地区の伝統的建造物群(かやぶきの里)の視察、株式会社北桑木材センターでは、木材市場・オガコ生産の現場を視察した。最後に、北白川試験地の植栽木と材鑑を見学し、レポートを作成した。

受講生:10名
  特別聴講学生:2名(筑波大学生命環境学群)
  一般聴講学生:8名(新潟大学農学部1名、宮崎大学農学部2名、人間環境大学4名*、
            高知大学総合人間自然科学研究科1名#)
            *:「共同フィールドワーク」として自大学にて単位認定、
            #:ゼミ科目の1部として利用。

日程:平成27年9月9日(水)~ 9月11日(金)
 9月9日(水)
  ガイダンスおよび上賀茂試験地の概要説明
  里山近郊二次林・マツ林・ナラ枯れ被害・マツ枯れ被害の見学・解説
  芦生研究林の概要説明、京都府北部の林業の現状、水質分析に関する講義
  樹木識別法実習 
 9月10日(木)
  芦生研究林上谷周辺の天然林の観察、樹木識別実習とシカ防護柵プロットの見学
  由良川上流部および湿地の水サンプルの採取とパックテストによる水質分析
  森での暮らしとシカなどの有効利用に関する講義 
 9月11日(金)
  南丹市美山町北地区伝統的建造物群の見学(かやぶきの里)
  京都の林業を学ぶ(北桑木材センター)
  北白川試験地・材鑑室の見学
  レポート作成・提出

実施報告

森林情報学分野 教授 吉岡 崇仁

今年度は、単位互換協定締結した農学部系学部から計5名の受講生を受け入れたが、そのうち、特別聴講学生としての受講は2名であった。一般聴講生と科目受け入れ生、修士学生のゼミ科目での利用を含め、全体で5大学から10名の受講生となった。
 京都大学公開森林実習は、京都大学フィールド科学教育研究センターの3つの森林フィールド施設:上賀茂試験地・芦生研究林・北白川試験地を巡りながら、里山・奥山の森林環境の現状と問題点を学ぶことを目的としている。上賀茂試験地では、戦前まで里山としての利用により植生の乏しい環境であったものが、試験地設定(1949年)以降里山的景観を持ちながら林分として生育してきた。また、諸外国の研究機関等との種子交換を継続して行っており、ガラス室や苗畑を活用して外国産樹種の導入を推進し、マツ、ツバキ、タケなどの大規模なコレクションを有する施設であることを解説と林内観察によって学んだ。芦生研究林では、近年日本全国で問題となっているシカによる植生被害に関して、その現実を芦生研究林の視察とシカ排除実験地での解説を通して学んだ。二日目の由良川最上流から下る林内観察は、かなりの雨の中での実施となったため、樹木同定実習は不十分であったが、広大な天然生林として残る芦生の森を実感するとともに、シカ食害によって下層植生がほとんどなくなった林床を目に焼き付けていた。途中で採取した渓流水や湿地の水について、パックテストによる水質分析を実習し、結果について討論した。その後、芦生研究林内での有害捕獲実施者の一人である藤原誉氏(田歌舎代表)から、森での暮らしや鹿・猪を森の恵みとして利用することなどについて解説を受けた。Iターンで森に暮らすようになった藤原氏の経験に基づく話題は、受講生にとってとても印象的で、講演後の質問やその後開かれた懇親の場でも熱心な質疑が続いた。三日目は、人間と森林の関わりを体験するため、かやぶきの里の景観を視察し、北桑木材センターでは、中坂昭会長から京都の林業の歴史と大径木が利用され難くなってきたという現状について話を伺った。構内では重機が材木を軽々と持ち上げて椪(はい)積み作業しているなかで、会長から材の良し悪しの見分け方などを教わった。北白川試験地の材鑑室では、100種以上の樹種について樹皮を間近に観察した。フィールド研会議室にてレポートを作成の後解散した。
 藤原誉氏、中坂昭氏のほか、各施設の技術職員、事務職員の皆さんに大変お世話になった。ここに記して、お礼申し上げる。

(参考情報)
フィールド研公開実習(他の実習も含む)の案内ページ
公開森林実習 平成27年度 募集情報