ポケゼミ報告2011「海岸生物の生活史」

海洋生物系統分類学分野 久保田 信 准教授

 1名(工1男)の参加で、自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)に産する無脊椎動物を中心に、伝統ある水族館を有する瀬戸臨海実験所の周囲の海岸において、実地授業を行った。主な実習内容は、(1)無脊椎動物の海洋での多様性の解説と図鑑などでの学習;(2)プランクトンの観察とクラゲのGFPの検鏡;(3)漂着物調査(番所崎と実験所“北浜/南浜”);(4)磯観察(番所崎)と番所山の自然観察;(6)瀬戸漁港の生物観察と白浜朝市の見学;(7)ムラサキイガイの付着生物相とムラサキイガイの解剖;(8)構内に出現する夜行性熱帯動物の観察と地球温暖化;(9)水族館飼育展示中の諸動物分類群の観察; (10)南方熊楠館で粘菌の観察:(11)USAフロリダ・タンパ周辺海域の動物と自然の紹介。
 多様な動物群を自然にあふれた現場で実地実習する有効性と整った設備と廉価な宿泊施設使用料の滞在費の負担(食費も含めた全てで1万円程度)は、決して重くない。日本最古で質のよい温泉で、フィ-ルドワ-クの疲労も吹き飛ばせるメリットもあった。参加者1名の実習の感想の一部を紹介する。「子供の頃から見ていた地元の白浜と、大きくなって他地方から短期間だけ戻ってきた時の白浜は全く違うものだった。ここは熱帯だ。こんな白浜が見れてよかった。学問の話から、ここに住んでいたことまで幅広いことを話して、研究職への夢が湧いた」。
 本実習はいくら時間があっても足りない。その理由は、生命の母なる海には未知な特徴だらけの生物が無数に、多様に、時空的に変化しながら、お互いに影響しあって存在しているから。145万種もの動物は最も細分しても、たった41門。この基礎を得心し、これからの人生で、地球の同朋者として生きている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、「生活史」のことを常に頭におき、個体・種全体・特定地域個体群・地球全生物の現在・過去・未来に思いを十二分に寄せること。人間以外は非情と言える食う食われるの関係で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存できる“おごそかさ”を十分にかみしめること。人間として生まれた幸せを納得すること。以上のポイントを心得ておくことこそ人間の義務。今後、多様な宝の海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に、人生をかけて、あるいは趣味として、めいっぱい親しもう・何かすごいことを究明しようといった思いが芽生えてくれば、本実習に参加した意義あり。3大テ-マ:(1) サンゴやサンゴイソギンチャクの如く、光合成の応用として人工光合成による食糧問題の解決;(2) ベニクラゲの若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;(3) 南海・東海大地震の予測、これらに加えて、海に潜む生物の様々な秘密を発掘・研究・応用する醍醐味を夢にみましょう。最後に、実習に参加した先輩とのよき交流を続行して下さい。