ポケゼミ報告2013「森のつくりだすもの」

森林育成学分野 教授 徳地 直子


 森は有形・無形のさまざまなものを私たちにもたらしてくれるが、森の実際の姿や森の作り出す機能の創出のためにどのようなしくみがあるのか、よく知っているとはいえない。このポケゼミ“森のつくりだすもの”は、森に入って、森にふれ、さまざまな森の性質をとらえることを目的としている。
 本実習は、和歌山研究林において夏季休業期間に行われる。和歌山研究林はフィールド研の研究林においても集落から離れた自然にめぐまれた地域にあり、また人工林率の高い森林である。そのため、以前は人工林の育成に関する林学教室の実習が行われていた。このような特徴を生かし、自然の森林を体験するだけでなく、現在産業として厳しい状態にある林業についても考えるきっかけとしてもらいたいとカリキュラムを立てている。今年度は、一昨年2011年秋の台風11号により林道がほぼ全壊した後、復旧が進んでいないため、昨年同様利用場所が限られた中での開催となった。講義などにおいても、事務所が使用できないため、旧清水町の民間の宿泊施設を利用し、以下のようなスケジュールとなった。

第一日目
 研究林を源流のひとつとする有田川の下流地点に集合した。有田川に沿って最上流にある和歌山研究林に向かって河川水の調査を行いながら移動し、流程に沿った水質の変化を調査した。

第二日目
 和歌山研究林において、林内を散策し、森林生態系の様子を観察するとともに、樹木の識別を行い、植生の分布と森林生態系の特徴について学習した。天然生林と人工林の比較を行い、人工林を管理することの重要性を体感した。その後、実際に枝打ち、間伐などの手入れを体験した。

第三日目
 今年5月まで京都大学白眉センター特定助教としてフィールド研で受け入れていた佐藤拓哉氏の協力を得て、事務所の裏の河川において、水生昆虫の同定や魚を採取して胃内容物の確認、2日目までに観察した中下流域との河川形状の違いなどを観察した。

 一昨年度の台風11号の被害状況から、復旧が滞っている現状などの説明を行い、実際に土砂で流された林道などを歩くことで、自然の力を感じてもらえたのではないかと思う。森林科学科の学生は1名のみであり、他学科・他学部の学生に、人工林は植栽にはじまり、下刈り、枝打ち、間伐など様々な手入れがあって成り立っていることを、作業を通じて伝えることができた。今年度は、男子学生ばかり6名で、森林にすっぽり包まれる3日間を過ごし、すっかり仲良くなった様子であった。またこのような体験が、中学校の林間学校以来だ、という声も聞かれ、近年森林が身近とはいえなくなっている現状や、教育過程において現場の実習を行う重要性を再認識した。