実習報告2025 ILASセミナー 「窒素・炭素安定同位体比から見る海洋生物の共生関係」

実習報告2025 ILASセミナー 「窒素・炭素安定同位体比から見る海洋生物の共生関係」

基礎海洋生物学分野 助教 山守 瑠奈

 2025年5〜6月に、ILASセミナー「窒素・炭素安定同位体比から見る海洋生物の共生関係」を実施しました。本実習は、生態学研究センターの木庭啓介先生と共同開催です。実習概要は、5月3日から2泊3日で白浜の海岸にて海洋生物の生態を学習し、実際に磯に住む生物の窒素・炭素安定同位体比を測ることで食物網を可視化する、というものです。日程は、白浜でのフィールド実習に加えて、データの解釈・発表の2回の事後学習を含みます。本実習には、3名の新入生が参加しました。
 フィールド実習初日は14時半に瀬戸臨海実験所に集合し、16時頃が干潮なのですぐに磯に出ました。3名全員とも磯観察が初めてとのことだったので、TA1名と共に安全管理を徹底しつつ自由に採集を行いました。実習生の主な採集生物は巻き貝類とヤドカリ類で、魚を追いかけて敗北する学生も見られました。ウニの巣穴に共生するハナザラやムラサキヤドリエビなどの小型の底生生物を教えてからは、巣穴の中やフジツボの殻の中を覗くようになりました。
 実習二日目には、朝からプランクトン採集を行いました(写真1)。プランクトンは多くの濾過食者の餌資源として活用されているので、同位体解析を行う上でも重要なプロットとなります。採集したプランクトンは簡単に観察を行った後、乾燥させ粉砕し、安定同位体解析のための秤量を行いました。また、初日に採集した生物に関しても組織の一部の切り出し、同様に乾燥以降の処理を行いました(写真2)。乾燥を待つ間に水族館見学を行い、動物門や共生系の概念について学び、また白浜周辺に生息する生物の多様性を学習しました。日中にめいっぱいサンプル秤量を行った後、夕食後には生態学研究センターの木庭先生に、安定同位体生態学の基礎について遠隔講義をして頂きました。
 実習最終日の5月5日には午前中にウニをとりまく共生系や深海で落ち葉を紡ぐ多毛類の研究紹介を行い、共生生態学の研究手法や、安定同位体解析の研究への活かし方について学びました。昨晩乾燥させたサンプルの秤量を終えてから解散し、フィールド実習は終了しました。
 生態学研究センターにて実施された同位体比分析結果をもらってから、次はデータの解釈・可視化を行いました。窒素・炭素同位体比のプロットを学生に渡し、特に気になる生物感相互作用を各自ひとつ選択し、双方に関して自ら立てた仮説について、データと照らし合わせて自由に考察した内容を発表してもらいました。発表はたいへん綺麗にまとまっており、各自実習内容に基づいた考察を展開しました。生物採集から解析、考察までの一連の流れを教員と学生が議論しながら実施でき、大変実りある実習にできたと思います。