ポケゼミ報告2014「環境の評価」

森林情報学分野 教授 吉岡 崇仁


 自然環境を評価することの意味について、自然科学的、社会科学的側面から解説と討論の形式で実施した。教室で講義形式の授業と芦生研究林での合宿を実施した。受講生は、文・法・理・工・総合人間学部で各1名の計5名であったが、学部の範囲が広く、ゼミでの検討でも議論にバラエティがあった。
 教室での議論では、例年の通り、環境の価値評価について、人間中心主義的観点と非人間中心主義的観点から検討したが、環境や自然物を経済的(金銭的)に評価することが必ずしも悪いことではない、二つの主義の間に明確な線引きをすることがむずかしいということなどが議論された。
 芦生研究林での合宿(8月14-15日)では、初日に下谷・上谷周辺のシカ食害に関する実験地や間伐試験地を見学したが、あいにくの降雨のため、十分な解説ができず残念であった。しかし、昭和初期に植栽されたスギ人工林やシカによる下層植生の摂食により、バイケイソウやオオバアサガラ、トリカブト、イグサ、イワヒメワラビなど忌避植物・不嗜好性植物だけとなった林床を見ながら、野生動物の保護と植生保護のジレンマについて、「環境を評価する」ということの本質を考えるよい機会になったと思う。初日の夕刻には、新聞やネット記事から環境に関するものを取り上げ、その中に現れる環境の評価について紹介し、記事自体への自身の考えをレポートにまとめて発表した。今年の発表内容は、台湾の稀少ヤマネコ、バイオミメティクスによる未来先端技術開発、京都府内のナラ枯れ、奈良春日山のシカ食害、そして「美味しい海」と、大きく異なるトピックが取り上げられたが、自然の価値や人間中心主義か非人間中心主義かを軸として、各自の考えが披露された。TAからも、価値観を固定化して考える必要は必ずしもないことなどのコメントがあり、受講生間の議論も活発であった。
 翌日は、朝から近代化産業遺産として認定されているトロッコ軌道沿いに、スギ人工林とかつての集落跡地を見学した。雨の中の視察であり、ヒルに見舞われた学生もいたが、かつての住居やおそらく農地あとに植栽された杉や大木となったトチノキなどを見て、人間と森との関係について印象を持ったものと考えられる。
 JR園部駅と芦生研究林の間の送迎や、現地観察に同行してくださった芦生研究林の技術職員の皆さんにお礼申し上げる。