実習報告2016「森里海連環学実習 II 」

森林情報学分野 教授 吉岡 崇仁

平成28年度の森里海連環学実習IIは、京都大学フィールド科学教育研究センターの北海道研究林標茶区と北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの厚岸臨海実験所を拠点として、8月28日から9月3日の日程で実施した。直前に北海道に上陸した2つの台風による降雨のため、別寒辺牛川流域の河川増水があり、8月31日の水生生物調査は大幅に縮小し、また、波浪のため、9月1日予定の厚岸湾調査も変更して実施した。

受講生:京都大学生9名、北海道大学生10名
    教職員・技術職員・TA:京都大学13名、北海道大学10名
日 程:平成28年8月28日(金)〜 9月3日(木)
 8月28日 実習生集合、ガイダンス、安全教育、講義、樹木識別実習
 8月29日 天然林毎木調査、土壌調査、講義
 8月30日 パイロットフォレスト視察、牧草地土壌調査、水源域調査、講義
 8月31日 別寒辺牛川の水生生物、講義、水質分析実習
 9月 1日 厚岸湾および厚岸湖の水質・水生生物調査、グループ発表準備
 9月 2日 愛冠自然史博物館見学、グループ発表、レポート作成、アンケート
 9月 3日 レポート提出、解散

実施報告
 北海道研究林標茶区では、樹木識別法を学んだのち、天然生林の尾根と谷部に設定したプロット(20×10m)において、胸高直径5cm以上のすべての木の胸高直径と種類を記録した。尾根と谷では生育する樹種や種数に違いがあり、また、土壌の形成過程にも違いがあることを土壌断面の観察から読み取る実習を行った。谷部の土壌調査では、表面10cmまで地下水が上昇し、土を掘るのも断面を観察するのも困難であった。尾根部では、火山灰の体積と土壌形成プロセスの進行状況、谷部では、土壌中に見られる褐色斑紋の形成過程について考察した。その後、北海道研究林で取り組んでいるカラマツ人工林の間伐・皆伐・植林実験地を視察し、シカによる食害を回避しながら育林を図る方法や間伐による人工林環境の改善効果などについて学んだ。水質調査については、事前に採取した別寒辺牛川流域及び研究林内外の河川試料について、簡易比色分析法(パックテスト)と携帯型イオンクロマトグラフィーを併用して分析の原理と実際の試料測定を学んだ。今回は、河川増水の影響によって縮小した水生生物調査に代わって、水質分析の原理に関する講義と分析実習に時間をかけることができた。
 別寒辺牛川および厚岸湖における水生生物実習では、河川の上流と下流、河畔林の有無などによる水生生物相や魚類の消化管内容物の違いを調べ、さらには別寒辺牛川の流入する厚岸湖のアマモ場で生物採集を行い、森・川・湖(海)のつながりについて考察した。また、厚岸湖および厚岸湾で採水された試料について、有色溶存有機物の光学特性に関する分析実習を行った。
 実習生は、森林での毎木調査・土壌調査や水生生物の調査結果に関するレポートを作成したほか、得られたデータや知見に基づいて「森」「川」「里」「海」の各班それぞれに異なる場の視点から森里海の連環について考察しグループ発表を行った。それぞれ、興味深い発表であり、教員のみならず実習生からも質問が出るなど活発な議論ができた。
 実習に当たっては、両大学のTAならびに両施設の技術職員はじめ多くのスタッフの協力により、効率よくまた安全に実施することができた。ここに記し、お礼申し上げる。