実習報告2015 「森里海連環学実習 I (芦生研究林-由良川-丹後海-舞鶴水産実験所 コース)」

里海生態保全学分野 教授 山下 洋


 京都府の北部を流れる由良川は、芦生研究林を源流とし若狭湾西部の丹後海に注ぐ。本実習では、森林域、里域、農地、都市などの陸域の環境が、由良川の水質、生物多様性、沿岸域の生物環境にどのような影響を与えているかを分析し、川を通した森から海までを生態系の複合ユニットとして、科学的に捉える視点を育成することを目的としている。今年度は 19人(本学 10人;農学部 7人、理学部 1人、工学部 2人、他大学 9人;国際教養大学 2人、長崎総合科学大学 1人、甲南大学 1人、富山大学 2人、名城大学 2人、福井県立大学 1人)の学生が参加した。日程は以下の通りである。

  8月6日(木) 京都大学(吉田キャンパス)集合後実習概要と安全に関する講義、
         芦生研究林へ移動して午後は研究林長治谷周辺で森林観察、由良川源流調査、
         夜は研究林の概要についての講義
  8月7日(金) 由良川上流~下流までの河川調査(水質、生物、流域景観)、
         舞鶴水産実験所にて水質分析
  8月8日(土) 午前中は由良川河口、神崎浜調査、
         午後は舞鶴水産実験所にて、生物の分類、水質分析
  8月9日(日) 舞鶴水案実験所において、生物の分類、消化管内容物分析、
         水質分析、データ解析とまとめ
  8月10日(月)舞鶴水産実験所において、データ解析とまとめ、レポート作成、報告会、
         その後京都大学(吉田キャンパス)へ移動し解散

 実習の内容は、芦生研究林における森林構造観察、鹿による食害の影響やナラ枯れ被害木の観察、土壌調査、由良川に沿って芦生研究林内の源流域から美山、和知、綾部、福知山を経由して丹後海に注ぐ河口域までの水質(水温、塩分、電気伝導度、溶存酸素、COD、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、リン酸態リン、珪酸、懸濁物質)調査、魚類、水生昆虫、プランクトン、底生動物などの水生生物の採集調査および土地利用様式の調査である。調査地点を、芦生研究林長治谷の由良川源流、森林域を流れる上流(美山川)、大野ダム湖、中流(和知)、農業地帯を流れる犀川合流点、市街地を流れ下水処理場排水が流入する和久川合流点とした。これらのフィールド調査を通して、森林、水田、耕地、都市などの流域の土地利用や河川を横断する構造物であるダムが、水質や水生生物の群集構造にどのような影響を与えているかを解析した。2010年度からオートアナライザーを用いた精度の高い栄養塩分析を行っており、従来のパックテストでは分析できなかった上・中流域も含め溶存態リンや溶存態窒素濃度のデータが得られたことから、水質の精密な解析が可能となった。また、全調査点でプランクトンネット採集を行い、支流ごとに流域環境に応じてプランクトンの組成が異なること、海水の遡上に対応して生物相が変化することなどが分かった。
 2012年度まで、班ごとに自由に研究テーマを決める方法でデータのとりまとめを行っていたが、テーマの決定に時間がかかり分析時間が不足したことから、2013年度からは各班にあらかじめテーマ(プランクトン、ベントス、水質、魚類、ダムの影響)を与えている。また、標本分析とデータ処理のための時間を増やすことにより、参加学生がじっくりとデータを解析しレポートを作成できるよう配慮した。