ポケゼミ報告2010「森里海のつながりを清流古座川に見る」

里地生態保全学分野 梅本 信也 准教授


 2010年8月23日(月)から27日(金)まで古座川流域と串本湾岸域、合計約400km2に展開する里域生態系諸相連環の体感をメインテーマにしたポケゼミが行われた。幸運にも初日から最終日まで天候に恵まれ、連日の猛暑にもかかわらず朝晩は涼しく過ごせた。参加予定者10名のうち、体調不良で6名が欠席、文学部、教育学部、農学部からなる少数精鋭メンバーとなった。
 初日はガイダンスと資源博物学的調査方法の説明を行った。「古座川合同調査報告集・第1、2、3、4巻」、「清流古座川物語」、調査用地図などの資料と野帳を配布し、古座川流域と串本湾岸域の概観、地形、気象、植生、土壌、生物相、文化相を把握させた。今年度は聞き取りと観察により、古座川と各漁業区の漁業の諸関係における歴史、現状と課題を探らせた。具体的には古座川流域および串本湾岸域における古座川水体を漁業関係者や一般居住者がどのように捉えているのかを、そのイメージが歴史的にどのように変遷してきたのか、問題点があるとすればそのように解決していけばよいのかを明らかにすることがテーマであった。ガイダンスの後、紀伊大島実験所構内に広がる照葉樹林からなる旧薪炭林で植物同定実習と資源的価値に関する野外講義を実施した。
 第2日は2名ずつの2班にわかれ、古座川河口域の中湊地区、串本湾岸域の樫野地区を訪問し、景観観察と聞き取り調査を行い、情報提供者ごとの基礎カルテを作成した。時間の制約もあったが、地区当り6~16名の情報提供者からの聞き取り情報が得られた。学生にとってはアポなし聞取り調査はまったくの初体験であり、南紀方言の問題、学生同士の心的距離の問題など最初は不慣れであったが、相手の心に自己の心を同調させる術も徐々に体得し、急速に調査技術が向上した。移動中の車内では積極的な仮報告や議論が続いた。いつものことだが、各学生の目の輝きが日に日に増加、他人への配慮が向上していくのが印象的であった。
 第3日は中下流域の高池、西向地区を訪問、同様な作業を行った。調査完了後には古座川流域の地質学的サイトを見学した。住民からの天然ウナギの差し入れがあり、全員で舌鼓を打った。
 第4日の午前はデータ整理やレポート作成作業に入り、一部の班は追加・補足的現地調査を行った。午後からは基礎カルテを集結、全人数分を複製して配布、情報の共有化を図った。分量はA4のレポート用紙で厚さ1.5cmとなった。こうした基礎情報をもとに森里海のつながり、古座川と漁業との関係、地域性、歴史変容といったキーワード内容で表現されるレポートを各自作成した。結論から言えば、古座川という存在は古座川流域だけでなく、遠くはなれた串本湾岸域の漁業や生活や文化、心理形成にも多大な影響を及ぼしていることが理解できたようだ。また、教科書世界とは異なり、現実の里域フィールドは大変に複雑に繋がっており、多様性に満ちていることも体感できたようだった。
 第5日目は、宿泊施設の片付け、発表会、レポート提出ならびにアンケート協力が行われ、正午前に解散となった。気恥ずかしさや気後れさが感じられる初日とは打って変わり、これまた例年通りではあるが、共同作業と共同自炊を、規則正しい共同生活を重ねるに連れ、学生の顔や言動にエネルギーが満ち溢れていくのが指導教員として大変に嬉しく思われた。(2010年8月27日)