芦生のトロッコ軌道、経済産業省の近代化産業遺産に

芦生研究林長 芝 正己


 この度、芦生研究林のトロッコ軌道が、経済産業省の「近代化産業遺産」の認定を受けた。「近代化産業遺産」とは、わが国の産業近代化に大きく貢献した産業遺産の価値を顕在化し、地域活性化に役立てることを目的に、経産省が2007年度から公募の上で選定を始めたものである。平成19年度の 33群に続き、平成20年度に続33群として取りまとめられ、トロッコ軌道は、その中の11群「山間地の産業振興と生活を支えた森林鉄道の歩みを物語る近代化産業遺産群」として認定を受けた。
 本大学が芦生演習林を開設したのは、1921年。1925年にシイタケ栽培、1932年には木炭の生産も始める。そんな中、自動車が通れる林道を作るのが困難な場所に、トロッコ軌道の整備が始まり、その距離7.7kmが完成した。シイタケや木炭の運搬、職員の移動に大いに役立った。この頃には演習林の中にも幾つかの集落があり、その集落の人達の足となり、生活物資の運び手となり、活躍したのも認定の要因でもあったと思われる。集落の子供達は、これに乗って学校へ通った。しかし、芦生事務所から1.6kmにある「灰野」という集落が1966年に廃村になり、演習林内の集落は無くなった。また、木炭も売れなくなり、製造中止。伐採も、1988年に原則中止とされ、トロッコ軌道の実質的な需要はなくなった。
 この芦生のトロッコを含めて、いわゆる森林鉄道と称されるものは、最盛期には国有林だけでも1万kmに達したといわれるが、1960年頃からトラック輸送に押されて、衰退の一途を辿り、1970年の木曽を最後に実質的に全廃されたと言えよう。その中で、需要が無くなっても当時の軌道を生かしつつ、運転が行われている所は、少ない。この「動くトロッコ」の姿で現存している芦生のトロッコ軌道が、認定の最大の要因だったと推測される。
 現在は、職員が林内巡視に使っている他、京大の認定を受けた地元ガイドが軌道を「ネイチャーガイドハイキング」の1コースとして案内し、登山客に喜ばれている。

ニュースレター17号  2009年8月 ニュース