植物と土壌の相互作用:芦生研究林での研究から

森林情報学分野 准教授 舘野 隆之輔


 樹木は土壌から養分を吸って葉や幹などの成長に使います。植物が吸った養分は、やがてリター(落ち葉や落枝など)として土壌に還元され、土壌中の分解者(土壌動物や微生物など)によって分解され、再び植物が吸収可能な形態に変化します。このような土壌と植物の間の養分の流れを森林の内部循環といいます。土壌と植物の関係は、地形などの環境傾度によって大きく変化します。尾根は谷に比べて土壌養分が少ないため、植物が吸収出来る養分の量が少なく成長も悪いのですが、このような貧栄養な環境では、少ない養分で生育出来たり、細根をたくさん作って養分を効率的に吸収出来たりするような樹種が優占します。このような樹種のリターは養分の含有率が低く、分解者にとっては分解しにくいリターです。また、養分を吸収しようとたくさん作られた細根は、死んで地下部のリターとして過剰に分解者に供給されます。植物が貧栄養な環境に合わせれば合わせるほど、養分のリサイクルがうまく行かなくなり、結局植物自身が養分不足になってしまうというフィードバック効果が起こると考えられています。一方、富栄養な環境では、分解はどんどん進み、養分のリサイクルもうまく進みます。
 私はこのような植物と土壌の関わりについて、1999年から京都府北部に位置する芦生研究林で調査を行ってきました。研究を始めた当時に比べて現在の芦生研究林では、たったの10数年ですが、大きな変化が起こりました。主要な林冠木だったミズナラが、ナラ枯れで枯れてしまい、またシカの食害の影響で下層を埋め尽くしていたササが無くなってしまいました。通常であれば土壌動物や微生物によって分解されて土壌に還るはずの落ち葉をシカが食べてしまっているのか、あるいは下草が無くなったせいで落ち葉が風で吹き飛ばされているのか、普通ならば秋に地面に溜まっているはずの落ち葉も昔に比べて随分少なく、細根もむき出しになっています(写真)。いずれにしても植物と土壌の相互作用や内部循環は大きく変化していると考えられます。今後は植物と土壌の関係だけでなく、シカなどの動物の影響も考慮して養分循環の研究を進めていく必要があると考えています。

ニュースレター30号 2013年8月 研究ノート