鳥獣保護と有害捕獲

森林資源管理学分野 吉岡崇仁


 芦生研究林は、京都府北東部の南丹市に位置し、面積は約42平方キロメートルある、フィールド研で最も広い研究林です。スギ・ヒノキの人工林もありますが、大半は天然性林で覆われ、森林科学の教育・研究の場として活用されているほか、小・中学生や一般の方の体験学習の場、さらには、ガイド・ツアーの場として、年間1万人を越える利用があります。現在の研究林内は、特に渓流沿いなどは、広々としてとても歩きやすく快適です。ところが、1990年代後半までは、すぐ前を歩く人の姿も見失うくらいに、ササや下草などが生い茂っていました。
 研究林内で植物が衰退する原因としては、ニホンジカが好まない植物が残っていることなどから、シカによる食害があげられています。2006年から始まった「芦生生物相保全プロジェクト」や2008年にフィールド研が開始したシカ排除実験による植物相の変化を見ても、シカによる食害が芦生研究林での植物衰退の原因として大きいことが分かります。写真は、長治谷に設置したシカ排除実験地を写したものですが、シカ防除柵の内側(写真1)は外側(写真2)に比べて、明らかに植物の種類と量が多いことが分かりました。また、外側にはシカの糞が見られています。
 芦生研究林の4割にあたる約17平方キロメートルは、京都府の鳥獣保護区として設定されています。しかし地元では農作物や造林地への被害の大きさから、シカは害獣と見なされています。2008年に設定期間が終了することから、鳥獣保護区として再設定するか否か、厳しいやり取りが研究林を含めた当事者間でありました。その結果、新たに10年間の鳥獣保護区の設定が承認される一方で、芦生地域有害鳥獣対策協議会を設置して、研究林内でのニホンジカに限定した有害捕獲を実施することになりました。「保護しながら捕獲する」という矛盾を抱えています。当事者としてのフィールド研・芦生研究林の役割は、有害捕獲の効果をシカ排除実験などで確認し、シカの適正密度管理と植物の保全とのバランスに科学的根拠を持たせ、協議会での議論を客観的に進められるよう努力することにあると考えています。

ニュースレター16号 2009年3月 ニュース