実習報告2013 「森里海連環学実習 I (芦生研究林-由良川-丹後海-舞鶴水産実験所コース)」

里海生態保全学分野 教授 山下 洋


 京都府の北部を流れる由良川は,京都大学芦生研究林を源流とし若狭湾西部の丹後海に注ぐ。本実習では,森林域,里域,農地,都市などの陸域の環境が,由良川の水質,生物多様性,沿岸域の生物環境にどのような影響を与えているかを分析し,川を通した森から海までを生態系の複合ユニットとして,科学的に捉える視点を育成することを目的としている。今年度は20名(本学12名;農学部6名,理学部2名,工学部1名,文学部2名,総合人間学部1名,他大学8名;岐阜大学1名,東京海洋大学1名,お茶の水大学1名,創価大学1名,山形大学1名,名城大学1名,山梨大学1名,北里大学1名)の学生が参加した。
 芦生研究林における森林構造と生態系,鹿による食害の影響やナラ枯れ被害木の観察,由良川に沿って源流域から美山,和知,綾部,福知山を経由して丹後海に注ぐ河口域までの水質(水温,塩分,電気伝導度,溶存酸素,COD,硝酸態窒素,亜硝酸態窒素,リン酸態リン,珪酸,懸濁物質)調査,魚類,水生昆虫,プランクトン,底生動物などの水生生物の採集調査および土地利用様式の調査を行った。今回は調査地点を,森林域を流れる源流(美山川),農業地帯を流れる犀川,市街地を流れ下水処理場排水が流入する和久川,および河川横断構造物の影響を見るために大野ダム湖内とその下流の和知とし,流域の土地利用やダムが,水質や水生生物の群集構造にどのような影響を与えているかを調査した。2010年度からオートアナライザーを用いた精度の高い栄養塩分析を行っており,上・中流域も含めリンや窒素濃度のデータが得られたことから,水質データの精密な解析が可能となった。また,全調査点でプランクトンネット採集を行い,支流ごとに流域環境に応じてプランクトンの組成が異なること,海水の遡上に対応して生物相が変化することなどが分かった。
 従来,班ごとに自由に研究テーマを決める方法でデータのとりまとめを行っていたが,テーマの決定に時間がかかり分析時間が不足がちであったことから,今年度は各班にあらかじめテーマ(プランクトン,ベントス,水質,魚類,ダムの影響)を与えた。また,標本分析とデータ処理のための時間を増やすことにより,参加学生がじっくりとデータを解析しレポートを作成できるよう配慮した。