ポケゼミ報告2014「京都の文化を支える森林 :森林の持続的管理に関する地域の智恵と生態学的知見からの検証」

森林育成学分野 教授 德地 直子
森林情報学分野 教授 吉岡 崇仁

 少人数セミナー「京都の文化を支える森林 :森林の持続的管理に関する地域の智恵と生態学的知見からの検証」は9名の受講生を迎え、2014 年 9月10日~12日の2泊3日で行った。
 実習の内容は、上賀茂試験地における近畿地方中部の里山の特徴を有する都市近郊林の自然植生とナラ枯れ・マツ枯れ被害、マツ類を中心とする外国産樹種とその特徴、芦生研究林における日本海側の多雪地帯の要素を有する原生的森林植生とシカによる食害による植生の変化、由良川源流域の水質調査について、講義と実習を通して学んだ。また南丹市美山町北地区の伝統的建造物群(かやぶきの里)の視察、株式会社北桑木材センターの中坂昭会長には京都の林業の歴史と現状について伺ったのち、木材市場・オガコ生産の現場を視察した。最後に、北白川試験地の植栽木と材鑑を見学し、レポートを作成した。

   9月10日(水)
     ガイダンスおよび上賀茂試験地の概要説明
     里山近郊二次林・マツ林・ナラ枯れ被害・マツ枯れ被害の見学・解説
     芦生研究林の概要説明、シカ猟に関する講義
   9月11日(木)
     芦生研究林上谷周辺の天然林の観察およびシカ防護柵プロットの見学
     由良川上流部および湿地の水サンプルの採取とパックテストによる水質分析
   9月12日(金)
     南丹市美山町北地区伝統的建造物群の見学(かやぶきの里)
     京都の林業を学ぶ(北桑木材センター)
     北白川試験地・材鑑室の見学
     レポート作成・提出

 今年度は、公開森林実習の9名も同じメニューで参加し、全体で18名の受講生で実施した。
 本セミナーは、京都大学フィールド科学教育研究センターの3つの森林フィールド施設:上賀茂試験地・芦生研究林・北白川試験地を巡りながら、里山・奥山の森林環境の現状と問題点を学ぶことを目的としている。近年日本全国で問題となっているシカによる植生被害が、上賀茂試験地と芦生研究林にも及んでおり、芦生研究林では、地元関係者で有害捕獲に関する協議会を設置して、ニホンジカの駆除を実施している。今年度の実習では、その現実を芦生研究林の視察とシカ排除実験地での解説を通して学ぶとともに、有害捕獲実施者の一人である藤原誉氏(田歌舎代表)から森での暮らしや鹿・猪を森の恵みとして利用することなどについて自らの考えを伺った。受講生にとっては、Iターンで森に暮らすようになった藤原氏の生の声は新鮮であり、講演のあと活発な質疑が続いた。2日目の芦生研究林では、シカ食害によって明るくなった天然生林を由良川源流に沿って下りながら観察した。また、植生や森林環境の違いが渓流水質におよぼす影響を把握するために、パックテストによる水質分析を実習した。3日目は、人間と森林の関わりを体験するため、かやぶきの里の景観を視察するとともに、北桑木材センターを訪問し、中坂昭会長から、京都北山林業の歴史と現状に関する講演を伺った。
 レポートでは、芦生研究林がかかえる問題を一つあげ、その解決方法について自らの考えを述べさせた。シカ食害や訪問者増による森林環境の劣化をあげる者が多かった。シカによる植生被害の低減に関しては、狩猟とシカ肉利用が対策にあげられたが、若者が森で暮らすということに着目した受講生も少なからずいた。これは、藤原氏による講演が大きく影響していたと考えられる。また、初日・2日目の夕食には、シカ肉料理を出したが、ちゃんと処理をすればシカ肉が柔らかくて美味しい食材であることを自分の舌で知ることができた。これらも座学では得られない効果であった。