ポケゼミ報告2015「森の創りだすもの」

森林育成学分野 教授 徳地 直子


 森は有形・無形のさまざまなものを私たちにもたらしてくれるが、森の実際の姿や森の作り出す機能の創出のためにどのようなしくみがあるのか、よく知っているとはいえない。このポケゼミ“森の創りだすもの”は、森に入って、森にふれ、さまざまな森の性質をとらえることを目的としている。
 そこで本実習は芦生研究林において夏季休業期間(8月31日~9月2日)に行った。芦生研究林は京都から約1時間半と比較的都市に近いにも関わらず自然にめぐまれた地域で、関西随一の流域レベルでの天然生林の残った森林として知られている。そこで本年は、我が国に多くみられる人工林と比較して天然生林の特徴について、生態学的にとらえることを目標の一つとした。

第一日目
芦生研究林の最寄り駅であるJR園部駅に集合した。迎えに来ていただいたバスに乗り、芦生研究林に入った。研究林では、事務所の横の由良川において、河川を観察し、さらに、森林軌道に沿って森林観察を行い、人工林の姿について把握し、熊はぎ除けのテープ処理などから芦生の人工林がかかえる問題について考えた。また、廃村となった灰野の集落跡などを見学した。夜は、芦生研究林に関する説明を聞いたのち、森林河川の水質形成や林業経営について研究している院生からの研究紹介などの講義も受けた。今年度は、芦生研究林が国定公園化される可能性が生じたため、芦生研究林を今後どのように運営するかをテーマに検討を加えることとした。

第二日目
芦生研究林杉尾峠から長治谷まで林内を散策し、森林生態系の様子を観察するとともに、樹木の識別を行い、植生の分布と森林生態系の特徴について学習した。前日に見学した人工林と比較して、天然生林の特徴を実感したようであった。そこから、人工林を管理することの重要性を体感した。また、シカ除外の実験を見学し、シカによる影響もみることができた。これらの地点、ならびに宮の森で伐採跡地の見学と河川水の採取、水生昆虫の観察を行った。事務所に戻り、講義室で水質をパックテストで確認した。2班に分かれ、昨夜学習したことなどから最終日の班ごとの発表に向け、レポートを作成した。

第三日目
2日目までに得たデータなどをまとめ、各班からの発表を行った。その後、使用した宿舎の清掃を行い、帰路についた。

 日頃あまり森林や山に行くことのない文学部、法学部や工学部の学生も含まれていたが(森林学科の学生もいたが、同じく山に行くことはないようであるが)、比較的歩きやすい芦生の森林を散策して、山にいるのを楽しんでいるようであった。また、国定公園化が及ぼす影響について、これまでは一面的に“よいこと”としてとらえていたようであったが、異なる立場からの検討を加えることの大切さを認識したようであった。その上で、芦生研究林が現在の姿を維持していくためにできることがあれば協力したいという声が聞かれた。