ポケゼミ報告2015「フィールド実習“森は海の恋人”」

基礎海洋生物学分野 教授 朝倉 彰・助教 中野 智之

 さる8月18日から4泊5日で気仙沼でポケゼミを行ってきました。今回の参加者は6名でした。今年は、「東日本大震災の復興の様子の見学」、「「森は海の恋人」の標語に代表される気仙沼の海と森の自然の豊かさ」を2本のテーマの柱としてポケゼミを実施しました。
 1日目は、大震災のあとに出来た海に隣接する湿地の見学。大震災の際に、大規模な地盤沈下がおき、そのために新たな地形がたくさんできました。そして生物の進出が始まりましたが、この湿地には多数の日本固有の水生植物、動物がみられるようになったそうです。またそのあと、高台に出来つつある新興住宅地の建設現場の見学に行きました。震災で多くの人が家を失い、また防災のために海辺には家を建てられなくなったために、こうした新しい住宅地が出来つつあります。
 2日目は、まずNPO法人 森は海の恋人の畠山信さんから、みずから被災した時の様子を講義していただきました。津波から自分の漁船をまもるために、船を沖合に出したところ津波によって船は転覆、泳いで近くの島にたどり着き、ライフラインがとだえた中で救助を待っていた様子が語られました。そのあと、海の豊かさを実感するため、舞根湾に船で出て、カキの養殖イカダの見学、カキの餌となるプランクトンをプランクトンネットでひきました。甲殻類のコペポーダが多数採集されました。また、対岸の九九鳴き浜に行き、タモ網を使って、どのような生物が生息しているかの調査を行いました。
 3日目の午前中は、豊かな森が豊かな海をつくる、という理念のもと活動を続けている畠山重篤フィールド研社会連携教授のご指導の下、山に植林をする体験学習。実際に植林した山が10年後にどうなっているのかを、「ひこばえの森」で見学しました。次いで室根山に登り、室根神社の見学、そのあと大船渡線の近くを流れる大川の見学をし、豊かな森がはぐくむ自然を満喫しました。夜は、舞根森里海研究所前の海でアナゴ釣りをしました。
 4日目は、午前中に畠山重篤さんによる「森は海の恋人」運動に関する講義、そのあと、夕べ釣り上げたアナゴとハモをさばき、炭火で焼いて賞味しました。午後は、大震災後の復興の様子を町に出て見学し、気仙沼市の道の駅「大谷海岸」付近に出来つつある巨大な防潮堤の工事現場を見学しました。
 5日目は、町づくりに関するアイデアを出し合うワークショップを行いました。東北では大震災の復興の中、新しい町づくりが始まっています。住みやすく快適な町をつくるためには、そうしたことに関する理念が必要となります。そうは言っても、それぞれの地域における特性や制約があるために、なかなか理想の町づくりというわけにはいきません。しかし、壊滅的な打撃を受けた海岸部を避けて、高台に新しい町をつくり、復興へ向けて時代は進んでいます。前日までの知見をふまえて、よりよい町づくりとは何かを議論しました。