施設紹介 北海道研究林

北海道研究林長 安藤 信


 北海道研究林は北海道の東部、釧路市の北北東約45kmの標茶区(1,447 ha)と西約40kmの白糠区(880 ha)の2箇所からなる。それぞれ旧陸軍省軍馬補充部用地跡に昭和24年(1949年)と25年に設置されたものである。

自然環境
 標茶区は根釧原野のほぼ中央に位置し、地形は準平原状のゆるやかな起伏を示し、標高は30~149mである。地質は第四紀完新世摩周火山灰層Iに属し、土壌は黒色火山灰土である。白糠区は阿寒山群の南端・白糠丘陵東部に位置し、標高64~270m、標茶区に比べて地形はかなり急峻である。地質は白亜紀および古第三紀に属する砂岩と粘板岩からなり、土壌は主に褐色森林土である。標茶の年平均気温は5.7℃、年降水量は1,157mm(1971~2000年)、白糠ではそれぞれ7.3℃、1,318mmである。標茶区の気候は表日本型の内陸性気候を示し、夏季には最高気温が30℃に達し、冬季の積雪深は30cm程と少なく、-30℃近くまで冷え込むことがある。白糠区の気候は表日本型で比較的温和であるが、夏季には太平洋岸で発生する海霧の影響を受けて日照不足になり易い。積雪深は60cm程で、-25℃以下になることはまれである。両区ともに北海道の中でも気候条件の厳しい地域である。
 天然林の植生は、標茶区ではヤチダモ、ミズナラ、ハルニレ、イタヤカエデなどの落葉広葉樹林からなり、針葉樹を欠く。亜高木種のハシドイや林縁や撹乱地にはシラカンバやケヤマハンノキも多くみられる。白糠区はトドマツとミズナラ、シナノキ、ダケカンバなど落葉広葉樹の針広混交林で、標茶区に比べると立木密度は高く蓄積も大きい。ともに林床にはミヤコザサなどのササが繁茂し、湿地にはヤチボウズもみられる。人工林率は標茶区で29%、白糠区では14%で、標茶ではカラマツを主体にトドマツ、アカエゾマツ、外国産針葉樹、白糠区では主にトドマツが植栽されている。林内にはエゾシカ、キタキツネ、エゾユキウサギ、エゾヤチネズミなどの大型動物が生息し、白糠区ではクマタカ、クマゲラも観察され、ヒグマの痕跡をみることもある。

教育と研究
 冷温帯から亜寒帯の移行部に位置する両区の異なった植生や特異な自然環境、そして釧路湿原、阿寒、知床の3つの国立公園と至近距離にある地域的特性を生かし、年3回の学生実習が行われている。「研究林実習Ⅲ」では道東の汎針広混交林や亜寒帯林、冷涼・湿潤な気候下に発達する湿原植生、火山性土壌、カラマツ林業の現状、除間伐作業、「研究林実習Ⅳ」では山スキー技術を会得させ、厳冬期の凍土・雪氷調査、樹皮・樹形による樹木識別、パルプ工場や野生生物保護センターの見学などをテーマに実習が行われている。北海道大学と連携して平成16年度に始まった「森里海連環学実習Ⅱ」はベカンベウシ川流域の森林・水生動物などの生物相と自然環境・土地利用などをテーマに行われている。
 研究林では適正な森林管理法を導く上で基礎資料となる天然林や人工林の動態調査や気象観測、酸性降下物モニタリング、樹木フェノロジー観察などの自然環境に関する長期に及ぶ研究が続けられている。また道東に所在する数少ない研究教育機関として、近年、地域の住民や学校などの利用も増えつつある。

ニュースレター6号 2005年11月