森里海連環学実習

(山下 洋 記)


 京都大学フィールド科学教育研究センターは,森林域,里域,沿岸海洋域の生態系が相互に連環する仕組みを解明するために,森里海連環学という新しい学問領域の創生を目指している。そのための一環として,平成15年度から理科系文科系を問わず1回生から4回生を対象に,森里海連環学実習というこれまでに例のない新しい教育プログラムを開始した。本実習は,学生に生態系研究の現場を経験してもらうという教育的な目的に加えて,教員が森から海までを一つの系としたフィールドで学生とともに調査を行い,まだ走り始めたばかりの森里海連環学を教育を通して補強するという効果も期待されている。
 実習は8月4日(月)から8月9日(土)まで行われ,森林分野から1名,里域分野から2名,海洋分野から3名の計6名の教員が担当し,報告者は全日程に参加した。受講生は1回生から4回生まで14名(農学部10名,合人間学部2名,理学部1名,工学部1名)であった。
 8月4日,5日は芦生研究林で実習を行った。両日は研究林内を移動し,由良川源流・上流域の渓畔林の種組成,芦生研究林全体の麓から山頂へ至る森林構造の変化について学習した。また,スギに対するクマはぎ防除や渓流水量測定施設の見学と水量測定の実習を行った。6日に芦生を発ち,水質を調査しながら由良川に沿って舞鶴に向かった。途中茅葺き屋根の里に立ち寄り,茅葺き屋根の歴史,気候風土との関係や地域での位置づけ等について住民に聞き取り調査した。バスの中では,芦生の森から舞鶴にかけての気候と民家の構造や農業形態の変化に関する講義が行われた。7日~9日には舞鶴水産実験所をベースに海洋実習を行った。由良川水質調査の続きとして,舞鶴湾から由良川河口域までの海洋観測と水質調査を行った。生物観察,泥と水質分析の結果を用いて,由良川上流域から舞鶴湾内までの環境変化を総合的に分析し考察した。この他,岩礁域におけるスノーケリングによる魚類観察,魚市場見学などを実施した。
 初めての試みであったため森里海の実習内容が個々に分離する傾向にあったことが大きな反省点である。来年度以降水質の他にも生態系の連環と直接結びつく実習項目を構成する必要がある。(山下 洋 記)

ニュースレター1号 2004年 2月 教育ノート