ILASセミナー報告2016「京都の文化を支える森林-森林の持続的管理に関する地域の智恵と生態学的知見からの検証」

森林育成学分野 教授 德地 直子
准教授 伊勢 武史
森林情報学分野 助教 坂野上 なお


 9月7~9日に上賀茂試験地・芦生研究林・北白川試験地を用いた地の拠点実習でもある“京都の文化を支える森林”を開催した。この少人数セミナーは,文部科学省の地(知)の拠点整備事業で行われる,京都に関わるさまざまな課題を取り上げる京都学教育プログラムの中に位置づけられている。そこで,京都の文化がその周辺にある森林からの様々な恵みによって成立してきたことを確認し,さらに現在森林の抱える問題についてより深い知識を得ることを目的としている。対象となる森林は,里山に位置づけられる上賀茂試験地,奥山である芦生研究林であり,日本の多くの樹種がみられる北白川試験地も訪問した。
1日目
 集合した上賀茂試験地では,德地直子教授から上賀茂試験地が戦後現在の場所に移動して70年であることを紹介し,試験地を見学しながら人間の時間の70年と森林の時間の70年の意味を考えてもらった。その後,研究林のバスで芦生研究林へ移動した。芦生研究林では,伊勢武史芦生研究林長による概要の説明を受けた。芦生研究林は奥山として京都の街へあるいは京都大学へ木材や薪炭を供給していたが,現在シカによる過食害の影響から下層植生が壊滅的な被害を受けている。このようなシカ害への対応のために,京都府および地元と連携して有害鳥獣駆除の事業を立ち上げ,禁猟期間にも特別駆除を行い,またシカ柵を設けて下層植生の回復に努めている。下層植生の回復の様子は夏にボランティアによるモニタリング調査が行われており,本実習の期間外ではあるが,参加希望の学生には協力してもらっている。夕食のあと,芦生在住の猟師の藤原誉氏から芦生でのシカ猟と最近の森の変化についてのお話しを伺った。
2日目
 芦生研究林の杉尾峠から長治谷に向かい,由良川源頭から樹木識別や河川水の調査を行いながら流下した。河川水はpH・ECの測定を行ってサンプリングし,講義室に持ち帰った。講義室では,吉岡崇仁教授より水質分析や森林生態系がつくる水質形成などの生態系サービスについての解説を受けた後,パックテストによる水質分析を行った。これらの情報などをもってTV会議システムを用いて、学生実習の行われている北海道研究林と意見交換を行った。森林の状態や実習での体験などを相互に話合い、またTVでの様子から芦生と北海道での気候や植生の違いなどを実感したようであった。夕食は外でBBQを囲み,シカ肉も食べながら森林について考え,生活と森林がより近く感じられた。
3日目
 芦生研究林から京都大学への帰路にある北桑木材センターで会長の中坂昭氏から最近の林業の動向などについてお話しを伺った。坂野上なお助教と会長のやり取りなどもあり,より理解が深まった。センターで昼食をとったあと,北白川試験地に戻り,見学した。会議室でこれまでのデータなどをまとめ,レポートを作成し実習を終了した。
 レポート作成においても多くの質問などがあり,学生が積極的に実習に参加してきたことが感じられた。最後に実習の学習だけでなく生活面でもお世話になりました芦生研究林,上賀茂試験地,北白川試験地の職員の方々にお礼を申し上げます。