芦生研究林基金の設立

森林育成学分野 准教授 伊勢武史


 芦生研究林に関心を持つ市民のみなさんから広く寄附をいただくため,芦生研究林基金を2016年12月に設置した。
■背景
 芦生研究林はいま,重大な岐路に立たされている。99年の期間をさだめて設定されている地上権契約は永遠に続くかと思われていたが,気づけば2020年には満了することとなる。果たして,その後も芦生研究林を存続させるべきだろうか。その答えを「YES」にするためには,国立大学の施設として,教育や研究の成果をあげていることと,研究者のみならず一般市民のみなさんからのサポートが大事であると考えている。
 教育や研究の成果を出すために,実施すべき改善策はいろいろある。しかし,大学の運営費に余裕のない昨今,アイデアがあっても実行に移せないことは多々ある。そこで,京大基金の仕組みを使い,新たに芦生研究林基金を立ち上げて,芦生研究林に関心を持つ市民のみなさんから広く寄附をいただくことを目指すことにした。
 寄附金によって,芦生研究林の保有する原生的な自然の魅力を維持・活用し,教育や研究を発展させることが可能となる。また,広く市民に芦生研究林のことを知ってもらうことも可能になる。さらに,多くの市民からのサポートを実感することは,我々芦生研究林担当者,フィールド研の教職員,さらには京大本部にとっても,芦生研究林の存続を積極的に目指すための大きな励みとなる。以上のような成果を目指し,芦生研究林基金は設置された。
■特色と成果
 芦生研究林基金の特色は,単なる寄附金集めとは違い,クラウドファンディングの形式を採っているところにある。一定額の寄附をしてくれた方に,こちらからも何らかの「お礼」をするのがクラウドファンディングだ。スタート時の企画として,京都の老舗,一澤信三郎帆布にご協力いただき,芦生研究林オリジナルのショルダーバッグを制作し,一定額以上のご寄附をくださった方先着100人に差し上げることとした。これは話題性に富む企画となり,朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・京都新聞の各社にニュースとして取り上げられた。そして,募集開始からわずか1週間で予定数の100人に達することとなり,予想以上の好結果となった。さらに,京都市内のデザイン会社に芦生研究林のシンボルマークとロゴマークを制作してもらったことが,現代の感性に合った宣伝とグッズ制作を可能にしたと思われる。
■課題と今後
 芦生研究林基金は,京大基金の枠組みで実施するクラウドファンディングの初の試みとなった。そのため,京大本部などとの調整に時間を要し,スタートがかなり遅れてしまったことが悔やまれる。
 芦生研究林オリジナルのショルダーバッグは大好評であったが,予定数に達してしまうと,その後の寄附は,比較的低調となった。見返りを求めずに寄附してくださる方には特に頭の下がる思いであるが,なんらかのお礼の品を出すことが寄附の起爆剤となり,芦生研究林の認知度の向上に役立つのならば,今後もアイデアを出し,クラウドファンディングの取り組みを続けていきたいと思う。
 そして最も重要なのは,寄附してくださった方の期待に応えるような使いみちを考え,教育研究の成果を出すことである。いま芦生研究林では,歩道や宿泊施設の整備など,利用者サービスの向上のためのアイデアを考えているところである。今後ぜひご注目いただきたい。

年報14号