白浜水族館特別企画展「生物学者のひみつ道具展」

基礎海洋生物学分野 中野 智之

 2022年3月25日から7月20日まで、瀬戸臨海実験所附属白浜水族館において特別企画展「生物学者のひみつ道具展」を開催しました。会期中の入場者数は、有料来館者数26,157人、無料入場者数5,789人、計31,946人でした。
 個々の研究者は研究のために、一般の人だけでなく他の分野の研究者も行わないような特殊な作業を行っています。そのためには特殊な道具を使ったり、一般的な道具を特殊な方法で使ったりしています。そんな道具を紹介することで、研究の面白さを知っていただけるような企画展を開催しました。道具の紹介パネル9点、生き物の紹介パネル4点、ひみつ道具を24点展示しました。この展示には京大だけではなく、東京大学、岡山大学、大阪教育大学、ふじの国ミュージアムなどの研究者総勢20名の協力を得て、海洋生物から珪藻、菌類、植物まで幅広い分類群の研究に関するひみつ道具を集めました。
 私が紹介したのはカサガイを岩から剥がすためのスパチュラ、サンプルの貝を入れるフィルムケース、防水カメラです。カサガイやアワビのような岩に強固に張り付く種類を採集するためには、磯がねを使うのが一般的ですが、カサガイの貝殻の縁を壊さないように採集するためには、もっと薄いヘラのようなものが必要でした。さらに、海で使用することが多いので、さびないように材質はステンレスが理想的です。何か良いものがないかと東急ハンズを歩き回り、出会ったのが銀細工の加工に用いられたり、歯医者さんで使用されるステンレス製のスパチュラでした。カサガイの縁を割らないように採集でき、これぞカサガイ採集のための道具でした。これまでに大型のマツバガイに真っ二つに折られたり、ごく最近の八丈島の調査ではツタノハガイに折られましたが、絶大な信頼を置いています。フィルムケースは海水などを入れていても漏れることがなく使いやすかったのですが、デジタルカメラの普及と共にフィルムの使用頻度が激減し、入手が困難となりました。水辺で使用するデジカメはもちろん防水が基本ですが、防水、接写機能、デザイン性が優れたオリンパスのTG シリーズは、海の研究者だけでなく、多くの研究者の間で使用されています。
 家庭用品を流用したものとして、お茶パック、キッチンハイター、ペットボトルの蓋などがあります。貝類などはDNA 解析のためにエタノールに入れて脱水しますが、植物は葉の一部をちぎってお茶パックに入れ、それらをチャック袋にシリカゲルと一緒にいれて急速乾燥させます。キッチンハイターはウニやヒトデなどの棘皮動物に良く使用され、表皮や体組織を溶かすために使われます。ペットボトルの蓋は魚のウロコを取ることに使えます。これを使うとウロコが飛び散りません。真面目にペットボトルの蓋を展示した博物館・水族館はうちが初めてかもしれませんね。

ニュースレター58号 2022年10月