森里海連環学教育研究ユニット 研究プログラム長/森林育成学分野 准教授 伊勢 武史
森里海連環学教育研究ユニット研究プログラムでは、日本財団の助成により「日本財団-京都大学共同事業 森里海連環再生プログラム RE:CONNECT(リコネクト)」事業を実施した。本事業の目的は、森里海連環の解明と、それに基づく人と自然の関係性の再構築であり、海洋・河川・里山などの環境保全のため有効な解決策の提案を目指すことである。人工知能やビッグデータ統計など最先端の情報科学技術を駆使し、従来は困難だった観測や解析を実現することが本研究の特徴である。
2021 年度は2 年計画の後半にあたり、前半で立てた構想を具体化することに注力した。RE:CONNECT 事業の主要テーマのひとつ「PicSea」は、瀬戸内海の海ごみの実態を解明し、海ごみの削減を目指すための事業である。PicSea の特徴として、研究者と市民が一体となって海ごみの実態を解明するためにシチズンサイエンスの枠組みを用いたことが挙げられる。多数の地元市民から情報を提供してもらうことで、時間的・空間的に広がりを持ったデータを取得することができ、研究者だけでは達成がむずかしい海ごみの実態解明につながる。市民が手軽に海ごみの情報を提供できるよ
うにするための工夫として、Android スマートフォンアプリ「PicSea」を制作し、配布を行った。これは、人工知能モデルが海岸の人工物を認識するという機能、市民がそれを撮影して写真を共有する機能、複数の市民が提供したデータを電子マップ上で閲覧する機能によって構成されたアプリである。
このアプリを普及させることで、海ごみに関するシチズンサイエンス研究を加速することを目指した。その一環として、社会啓発事業を複数実施した。特筆すべきは、2 月から3 月にかけて岡山県玉野市にて実施した「瀬戸内ゴミンナ~レ!!」である。海ごみを素材として芸術作品を制作している淀川テクニック氏など複数の芸術家を招聘し、彼らの作品を市民に公開することで、海ごみ問題とPicSea アプリの啓発を行った。この写真は展示された作品の一例であり、多くの来場者の関心を集め、またテレビや新聞などのメディアに複数回取り上げられた。このように、市民を巻き込み環境問題について研究し、対策を考えるというシチズンサイエンスの手法は今後の持続可能な社会の構築のために重要な要素になり得ることを、一連の活動で実証できた。
年報19号 2021年度 主な取り組み