東日本大震災に関連したフィールド研の取り組みについて

センター長 柴田 昌三

 2011年3月11日の東日本大震災は、全世界を震撼させたが、フィールド研が全国に持つ施設に対しての直接的な被害は与えなかった。比較的急な対応を迫られた施設は瀬戸臨海実験所附属水族館であり、急遽閉館し一般来訪客に避難を促した後、浜辺に1m程度の津波が到達した。また、北海道研究林白糠区でも海岸部には2m程度の津波が到達したが職員及び施設に被害はなかった。しかし、フィールド研の社会連携教授である畠山重篤氏の宮城県気仙沼舞根の水山養殖場は、津波によって壊滅的な被害を受けただけではなく、ご母堂も犠牲となられた。
 フィールド研では、震災に対する支援対策として、舞鶴水産実験所において被災学生2名を受け入れた。彼らは、東京海洋大学博士課程留学生(116日間)と北里大学海洋生命科学部4回生(309日間)であり、宿泊施設の利用負担金の不撤収などを実施した。さらに、8月3日には、京都府教育委員会が受け入れた福島県の被災中・高校生の体験学習を舞鶴水産実験所で受け入れた。また、畠山社会連携教授の地元においては、田中克名誉教授が4月から益田玲爾准教授などの共同研究者とともに現地に入り、津波の影響を受けた舞根湾内の沿岸域生態系の回復の様子の追跡調査が開始された。
 一方、畠山氏には従来からポケゼミ「森は海の恋人」を毎年夏に受け入れていただいていたが、2011年度は中止もやむなしという考えが支配的であった中で、畠山氏からは、こういう時であればこそ一人でも多くの学生さん達に現地を見てほしいという強い要望をいただき、8月22~27日に実施することとなった。畠山氏には全学共通科目である「森里海連環学」のリレー講義の一員としても例年通り講義をお願いしたが、これを機会として7月16日には「東北地域連携講座」を京都会館において開催することとし、畠山氏に加えて尾池京大前総長らにもご講演をいただいた。
 本学では、3月の卒業式などを通して震災地への義援金が集められていた。この提供先として、京大で唯一東北地方と関係を持っていたフィールド研の気仙沼市との関係が注目され、気仙沼市への義援金の贈呈が決定され、8月23日にこれが実現した。これに先立って、7月15日には畠山氏と本学大西理事との会談が実現した。一連の活動を通して、京都大学は本学の学生を、教育的観点を重視したボランティア活動を行うために気仙沼市に送り込むことを企画した。フィールド研ではこれを積極的に支援することとし、その窓口あるいはコーディネータとして機能することとした。この学生ボランティア活動は、少なくとも10年間は継続し、本学学生に貴重な教育の場を提供することとし、2011年度には2回の派遣を行った。1回目は2011年8月26~30日に、2回目は2012年3月19~23日に行った。具体的な活動内容は、1回目は瓦礫撤去、植林、筏材の伐採・搬出・組み立て、ホタテ稚貝の取り付け、などであった。2回目には筏材の伐採・搬出、牡蠣稚貝の取り付けに加えて、1回目参加学生の発案による地元気仙沼高校との交流会が行われた。いずれにおいても労働ボランティアと研究ボランティアが募集され、研究ボランティアは先に述べた活動以外に、舞根地区における水質調査や土壌調査などを行った。このボランティア活動には引率として、教員の他、森林系技術職員や事務職員も同行し、活動を支援した。特に、技術職員は筏材の伐採・搬出に大きく貢献し、ボランティア活動の円滑な遂行に協力したことは特筆すべきことである。
 フィールド研では、田中名誉教授が活発に行っている活動を中心として、数々の関連イベントにも協力・参加してきた。その一例としては、2011年4月30日開催(岩手県一関市)の「「森は海の恋人」運動を支援する研究会シンポジウム」、6月18日開催(大阪市)の「地球環境シンポジウム」、12月21日開催(仙台市)の「森は海の恋人シンポジウム」などが挙げられる。
 フィールド研は今後も京都大学が主催する学生ボランティア活動に積極的に協力する他、部局として気仙沼市舞根地区における研究活動を長期的に継続していく予定である。

年報9号  2012年10月 p.4