三年目を迎えた木文化プロジェクトの活動

里山資源保全学分野 教授 柴田 昌三

 文部科学省概算要求事業(プロジェクト分)としてフィールド研が展開している「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」(通称「木文化プロジェクト」)は2011年度に中間年である、3年目を迎えた。事業対象地である二つの流域、京都府由良川流域と高知県仁淀川流域においてはそれぞれの事情を踏まえた上で、独自の展開を行うことができた。2011年度の進捗状況は以下のとおりである。
 由良川流域では、3年目にしてようやく本事業が目的とする事業内容を実践する方向性が確定し、その実現のための活動が促進された。前年度に正式な事業推進のための対象地として確定した芦生研究林下谷においては、森林管理施業実施に備えた、施業実施以前の森林の植生や渓流水質等の把握が行われた。また、年度後半には実際の森林施業実施の具体的な方向性を検討し、翌年度の実施を前提とした施業計画が決定された。また、舞鶴水産実験所と芦生研究林が事業開始前から継続してきた由良川全流域における水質を中心とする調査は今年度も継続して行われ、特に舞鶴水産実験所において行われてきた河口域における研究は大きな成果を挙げることができた。
 仁淀川流域では、対象の吉ヶ成水系で、作業道の作設と作業道に沿った間伐が継続的に進行した。前年度に予測された、地域の聖域であるガラクにはついに作業道が到達し、地元住民のこの聖域における祭事の再生あるいは活発化に期待ができる状況となった。流域の広域における調査に関しては、共同研究協定に基づいて活動いただいている高知県環境研究センター及び県森林技術センターから、本年度も多大なるご協力をいただいた。また、地元NPO団体の「仁淀川の”緑と清流”を再生する会」からも例年どおりに採水において協力をいただいた。ここに改めて感謝申し上げたい。さらに、事業を通じて強力なご支援をいただいている池川林産企業組合には本年度も献身的なご協力をいただいた。仁淀川流域では、このような学外からの貴重なるご協力によって成果が挙がっていることは非常に重要である。
 社会的調査に関しては、本年度は次のステップに向けての検討が活発に行われた。その中では、「幸福度」も大きなキーワードとなっており、地域の方々の生活を考えるために何が最も必要なのかが真剣に討議された。また、仁淀川流域においては森林総合研究所四国支所の活動や、県から派遣された職員による地元おこしの活動も活発化しており、これらのグループとの連携も視野に入れた活動の重要性が認識できた年度でもあった。
 地元との連携事業としては、由良川流域では9月24日に福知山市で地域連携講座を開催した。また、仁淀川流域でも10月8日に仁淀川町池川において前述のNPO団体との共催で地域連携講座を開催し、林野庁長官などを迎えて活発な討議が行われた。本年度は京都市内での連携事業は木文化プロジェクトに関しては行わなかった。
 本年度は、フィールド研内で、効率的な事業の推進のために、「木文化サロン」の定期的な開催を始めた。このサロンでは、社会的調査の進め方に関する議論が行われたほか、芦生研究林における効果的な調査研究の在り方についても議論が積み重ねられた。
 2012年3月7日には、3回目となる報告会がフィール研会議室において開催された。これまでに蓄積されたさまざまな研究成果が発表されたほか、今後の研究の展開に向けた討議が熱心に行われた。
 以上のように、2011年度は本事業をより効率的、かつ積極的に展開していくためのさまざまな議論と試みが行われた年であったと位置づけることができる。残り2年間にどれほど多くの蓄積を積み重ねられるかは、今後のフィールド研の在り方を考える上で重要である。

年報9号  2012年10月 p.8