森里海連環学実習A

2012年8月6日~10日、芦生研究林および舞鶴水産実験所において、全学共通科目(1~4回生対象)森里海連環学実習A(芦生研究林-由良川-丹後海コース)を開講しました(公開実習・参加者 京大11人、他大学1人)。

里海生態保全学分野 教授 山下 洋

 京都府の北部を流れる由良川は,京都大学芦生研究林を源流とし若狭湾西部の丹後海に注ぐ。本実習では,森林域,里域,農地,都市などの陸域の環境が,由良川の水質,生物多様性,沿岸域の生物環境にどのような影響を与えているかを分析し,川を通した森から海までを生態系の複合ユニットとして,科学的に捉える視点を育成することを目的としている。今年度実習に参加した学生は12名(本学農学部5名,理学部2名,法学部1名,文学部1名,総合人間学部1名,医学部1名,他大学はお茶の水大学1名)であった。
 芦生研究林における森林構造と生態系,シカによる食害の影響やナラ枯れ被害木の観察,由良川に沿って源流域から美山,和知,綾部,福知山を経由して河口域までの水質(水温,塩分,電気伝導度,溶存酸素,COD,硝酸態窒素,亜硝酸態窒素,アンモニア態窒素,珪酸,懸濁物質)調査,魚類,水生昆虫,プランクトンなどの水生生物の採集調査および土地利用様式の調査を行った。今回は調査地点を,森林域を流れる源流(美山川),農業地帯を流れる犀川,市街地を流れ下水処理場排水が流入する和久川,および河川横断構造物の影響を見るために大野ダム湖内とその下流の和知とし,流域の土地利用やダムが,水質や水生生物の群集構造にどのような影響を与えているかを調査した。とくに,従来水質分析は簡易キットによる分析だけであったが,今年度からオートアナライザーを用いた精度の高い分析を並行して行い,簡易キットの結果と比較した。これまで測定限界以下であった上・中流域のリンや窒素濃度のデータが得られたことから,水質データの精密な解析が可能となった。また,全調査点でプランクトンネット採集を行い,和久川の下水処理場の下流の調査点では,他では見られない大量の原生動物が観察されるなど,これまでの実習では確認できなかった新しい発見があった。
 今年度は標本分析とデータ処理のための時間を増やすことにより,参加学生がじっくりとデータを解析しレポートを作成できるよう配慮した。例年いくつかの班に分けてデータ分析と考察を行っている。今年度は新たにプランクトン標本を全調査点で採集したところ,その結果が明瞭に水質等を反映していたため,4つの班がいずれも水質や人間活動とプランクトン組成との関係に焦点を当てた解析と報告を行った。