(元)京都大学人間・環境学研究科
相関環境学専攻
増田 和俊
芦生研究林は西日本最大級の天然林が残っており、1000種を超える維管束植物が生育しているなど極めて種多様性の高い地域として知られています。その中には各種レッドデータブックに記載されるような希少植物が多数生育していますが、これらの希少植物の多くはもともとの個体数が少ないうえ、2000年前後より問題となっているニホンジカの食害によって絶滅の危機に瀕しています。私たちは、こうした希少植物の地域絶滅を回避するため、自生地から種子を採取して食害の危険性がない安全な避難場所で栽培する「域外保全」を行っています。
適切な域外保全を行うにあたって、気を付けなければならない点の1つに採取する種子親の血縁関係があります。一般に生物は血のつながりが近い(クローン、兄弟など)もの同士が交配すると、その子孫の成長や繁殖に悪影響が出ることが知られています。従って、せっかく野外でたくさんの種子を採ってきても、それらすべてが同じ親由来の兄弟であった場合は、世代更新が上手くいかずに域外保全集団が途絶えてしまうかもしれません。このような危険性を回避するためには、事前に域外保全を行う個体やその親が持つDNA情報から血縁関係を調べる遺伝分析が必要です。しかし、従来の方法では種ごとに解析をカスタマイズする必要があることやデータ取得に時間と手間がかかることから、スピーディーに保全を進めにくいという欠点がありました。最新の遺伝分析手法の1つ(MIG-seq法)はこれらの欠点を改善できる可能性があったため、私たちはこの手法が域外保全に適用できるかどうかを、芦生研究林に自生し京都府絶滅寸前種であるヒメシャガ(アヤメ科)を研究対象として調査しました。
ヒメシャガの自生地は研究林の奥深くであり私たち研究者だけではアクセスが難しかったため、現地調査の際は林内に詳しい技術職員の皆様にご同行いただきました。自生地から採取した種子は大学の圃場で栽培し、これらの血縁関係を調べるため種子親に対して遺伝分析を行いました。その結果、最新の手法は従来の手法と遜色なく域外保全に適用でき、例えば現地では別株だと思っていた種子親の中にクローンが含まれていることや、ある種子親由来の種子は全て母親と父親が同じである自殖によって生まれたことなどが分かりました。今後は今回使った遺伝分析手法を他の希少植物に対しても用いることで、域外保全を行う種を増やしていきたいと考えています。






































