伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)
WEBナショジオ連載【森で想う環境のこと・人のこと(外部リンク)】
連載期間 2014年12月18日~2015年11月9日 全12回(現在は連載を終了しております。)
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連載期間 2014年12月18日~2015年11月9日 全12回(現在は連載を終了しております。)
academist journal掲載コラム
絶滅の危機にある希少種がなぜか大量発生!生態系に改変をもたらす動物とは(外部リンク)
私たちは植物が産生する生理活性成分の1つであるリグナンという化合物群の生合成について研究しています。リグナンの1種であるポドフィロトキシンは抗腫瘍性活性を示す化合物であり、臨床的に抗がん剤として利用されています。しかし、ポドフィロトキシン産生植物は希少であるため、将来的には同化合物の生合成を解明し、微生物などによって安定的に大量生産させることが期待されています。それゆえ、近年では、ポドフィロトキシンの生合成経路についての研究が盛んに行われており、同生合成経路に関与する生合成酵素遺伝子も多く見出されましたが、未だ完全な解明には至っていません。
芦生研究林内における由良川の川原に自生しているセリ科植物のシャクは、ポドフィロトキシン生合成経路を有していることから、私たちはこれまでシャクを用いて同生合成経路解明に向け研究に取り組んできました(Sakakibara et al., 2003; Ragamustari et al., 2013, 2014)。近年、一度に膨大な遺伝子情報を得ることが可能な次世代シーケンサーという分析機器を使用し、様々なシャクのサンプルから遺伝子情報を取得しました。そして、これら遺伝子情報とポドフィロトキシン生合成に関連するその他のデータとの相関解析を行うことによって、数十万という遺伝子群からポドフィロトキシン生合成遺伝子を絞り込み、標的とする遺伝子を同定することに成功しました(Kumatani et al., 2016, 2017)。しかし、未だに同生合成経路には見出せていない遺伝子も存在することから、現在それら遺伝子の取得を試みています。
掲載論文及び学会発表
Sakakibara et al. (2003) Org. Biomol. Chem. 1: 2474-2485
Ragamustari et al. (2013) Plant Biotechnol. 30: 375-384
Ragamustari et al. (2014) Plant Biotechnol. 31: 257-267
熊谷ら(2016)第34回日本植物細胞分子生物学会(上田大会)
熊谷ら(2017)第67回日本木材学会(福岡大会)
2018年1月17日
京都大学フィールド科学教育研究センターの中川 光特定助教とその共同研究者らは、魚の体表や糞などと共に水中に放出されたDNA (環境DNA) を分析する新技術を用いることで、これまでに何年もかけて採集や目視観察によって確認されてきた琵琶湖周辺地域の河川の魚類の86.4%を、たった一人の調査者による10日間のサンプリングで検出することに成功しました。
水中に漂う環境DNAを用いた生物の生息確認技術は、従来多大な労力と費用をかけて行われていたモニタリングの手間を劇的に軽減させうるものとして、近年注目が集まっています。中でも、次世代シーケンサーという機械を用いて行うDNAメタバーコーディングという方法では、多種の生物分類群を一度に調べることができます。本研究では、魚類の環境DNAを対象としたメタバーコーディング法について、これまで検証が行われていなかった河川での適用可能性を検討しました。
日本で最も河川魚類の種多様性が高く、分布がよく調べられている地域の一つである琵琶湖周辺地域において、2014年8月から10月に、10日間かけて、51河川102地点で水サンプルを採集し、河川水に含まれる環境DNAから生息魚種の推定を行いました。結果の妥当性は、採集や目視観察といった従来の調査方法から得られた複数の文献データに含まれる、1700地点以上の魚類の分布記録との比較によって精査しました。その結果、環境DNAから、文献から予想された44種のうちの38種とこれまで報告がなかった2種の合計40種の魚類のDNAを検出できました。この結果は、これまで多大な労力を要した、網羅的な継続モニタリングや、外来種の侵入状況といった速報性の要求される情報の収集における本手法の有効性を示しています。
本研究は、2018年2月28日に米国の科学誌「Freshwater Biology」にオンライン掲載されます。
地球上には、様々な生物が森や川、海など多様な生態系を形成しています。こうした多様な生態系は、水や食料の供給や災害の防止、さらには地域の自然とともに発展してきた文化の基盤となるなど、人が生活する上でなくてはならないものです。こうした”生物多様性の恵み”を国全体として将来に残していくため、2008年に「生物多様性基本法」が制定され、その成立を受けて2010年には「生物多様性国家戦略2010」が閣議決定されました。この施策を推進する基盤となる技術の一つが生物多様性のモニタリングです。ところが、海や川や湖沼で魚の多様性をモニタリングするには、潜水観察や漁具による採捕など、大きな労力と費用をかけた長期間の調査が必要でした。さらに、魚の種類を同定するためには、専門的な知識と経験が必要でした。
魚を含む水生生物の体表の粘液や糞に含まれるDNAが、池や湖、川などの水中をただよっていることが最近になって明らかになり、「環境DNA」と呼ばれて注目を集めています。環境DNAを調べることで、水中にどのような生き物が棲んでいるのかを知ることができます。環境DNAは種に関係なく、全ての魚から放出されるため、環境中のDNAをまとめて分析して生物の種類を判定する「環境DNAメタバーコーディング」という技術をつかって、水中にいる多様な魚の種を一度に特定できるようになりました。この技術は、生物多様性のモニタリングにかかる費用と労力を劇的に小さくする可能性を秘めていますが、こうした新技術を現場での応用に繋げるためには従来の方法と比較した性能の検証が必須です。
研究グループではこれまで沖縄美ら海水族館の大型水槽や、舞鶴湾の魚類を対象に環境DNAメタバーコーディング技術の性能検証を行い、非常に高い精度で魚類の多様性を検出できることを示してきました。一方これまで河川での適用例はなく、検証が必要でした。そこで、日本で最も河川魚類の種多様性が高い地域の一つである琵琶湖周辺において、従来の観察に基づく文献による魚類分布データと環境DNAによる検出データの比較を行い、魚類環境DNAメタバーコーディング技術の有効性について検討しました。
2014年8月から10月に、10日間かけて、琵琶湖周辺(滋賀県全域と京都府、福井県、岐阜県、三重県の一部、約4,000 km2)の51河川102地点を車で回って水サンプルを採集し、河川水に含まれる環境DNAから生息魚種の推定を行いました。さらに、環境DNA手法との比較対象として、滋賀県立琵琶湖博物館が中心となって5年間かけて収集した1700地点以上におよぶ魚類の採集記録などの文献データを取りまとめ、地理情報システム(GIS)を用いた解析を行いました。
河川は、湖沼や海洋などと大きく異なり、上流から下流に常に水が流れているという特徴があります。そのため、環境DNAで検出された魚類の種組成のパターンは、各調査地点から6km上流までの範囲に存在する文献の記録と比較した時にもっともよく対応しました。そのデータの比較において、調査地点周辺で過去に報告されていた44種のうちの38種と、調査地周辺ではこれまで報告がなかった2種の合計40種の魚類のDNAが検出されました。これらのうちいくつかの魚種では文献情報による記録よりも多くの地点で環境DNAの検出があり、特に大きな川の深いところを好む種など、網などによる捕獲が難しい種では、環境DNAによる調査の有効性が高いことが示唆されました。さらに、近縁な魚種間(カジカとウツセミカジカ)での川の上流下流といった大きなスケールでの生息場所の違いなど、これまで知られていた個々の種の生態や種間の関係の理解に役立つような知見と一致する傾向を検出することもできました。これらの結果は、今回検討した魚類環境DNAメタバーコーディングの技術が、河川の生物多様性モニタリングにおいても費用対効果において非常に有用なツールとなりうることを示しています。
本研究では、魚類の生息の有無について魚類環境DNAメタバーコーディングが河川でのモニタリングにおいても有用なツールであることを示しました。一方で、魚がそれぞれの地点にどのくらいたくさんいるのかといった量的な情報については、十分な検証はできていません。環境DNAによる魚類の生息量の推定は、現在いくつかの研究グループが取り組んでいる重要課題の1つです。
現在、環境DNAメタバーコーディングは魚類のみならず、様々な分類群(昆虫やエビ・カニなど)で試行・開発が進んでいます。この技術の確立は、労力や専門知識がネックとなって進んでいなかった、様々な生物から成り立つ生態系全体を俯瞰するような生物多様性のモニタリングや日本全国や世界中で同時に行う超広域モニタリング、生き物の移動や増減を1日または数時間単位で観測する高頻度モニタリングも可能になるかもしれません。さらに、今年の春には一般社団法人「環境DNA学会」の発足も予定されています。この学会での研究者間の情報交換や相互協力を介して、現場レベルでの簡便かつ確実性の高いモニタリング手法が構築されることで、企業や行政が行うアセスメントや環境保全活動を行う非営利団体などに利用が広がることが期待されます。一方で、この技術は希少種や絶滅危惧種の発見も容易にするため、それらの密猟や水産有用種の過剰捕獲にもつながる可能性があります。こうした技術の悪用に繋げないためにも、この技術を念頭に置いた法令的な対応も今後の課題と言えます。
JST CREST (no. JPMJCR13A2)
科研費 (no. 14444453)
笹川科学研究助成 (no. 26-443)
タイトル:Comparing local- and regional-scale estimations of the diversity of stream fish using eDNA metabarcoding and conventional observation methods
著者:中川 光1・山本 哲史2・佐藤 行人3・佐土 哲也4・源 利文5・宮 正樹6
1京都大学フィールド科学教育研究センター
2京都大学大学院理学研究科
3琉球大学大学院医学研究科
4千葉県立中央博物館
5神戸大学大学院人間発達環境学研究科
掲載誌:Freshwater Biology
中川光・東南アジア地域研究研究所・特定助教
E-mail:hikarunakagawa@icloud.com
2018年3月1日
※1 執筆時、京都大学フィールド科学教育研究センターに所属
大学院での研究テーマに「森林生態系における土壌動物の役割」を選んで、芦生で土壌動物研究を始めた。初めて芦生へ入ったのは1961年5月の連休だった。京都から周山経由安掛までJRバス、そこから京都交通のバスに乗り換え、終点田歌へ、そこからは歩いて須後に着いた。夕食時だけ電灯が点いたが、そのあとは石油ランプだった。次の日は内杉谷をつめケヤキ峠を越え、下谷の丸木橋を何度も渡り、ドイツトウヒ林の中を抜け、ススキ原の中に立つ長治谷小屋へたどり着いた。須後から長治谷まで旧歩道を歩いた人はもう少ないようだ。
大学院の5年間、その後、助手に採用され芦生演習林に勤務した6年間、学位論文作成のため、芦生研究林内のブナ林、スギ人工林、ススキ草地、竹林など、ちがった植生下で、ミミズ、ヤスデ、ムカデ、ダンゴムシなどの大型土壌動物の個体数・現存量を調べた。それをもとに土壌中での土壌動物の垂直分布、植生でのちがい、令級のちがうスギ林と天然林を比較しての森林伐採の影響、落葉量・落葉堆積量からの落葉の平均分解率と土壌動物の現存量の関係などについて報告してきた。
土壌動物調査のための土堀りはたいへんだった。深さ50cmあるいはもっと深くまでの土をビニールシートの上に掘りだし、一日中、ピンセットで眼に見える動物を採集していた。ということは、大型土壌動物の数を数え、重さを量っただけだということだ。現存量でもっとも大きな割合を占めるミミズも、その数と重さだけしか量っていない。どんなミミズだったのか、何種いたのかの記載がないということだ。
当時のこと、ミミズを同定してくれる研究者はいなかった。もちろん、ミミズの標本をつくり、自分でも少しは分類を試みたのだが、すぐにわからないものがでてきたし、論文に掲載するほどの自信はなかった。唯一種名のわかったのが学生宿舎とタケ林の間、当時テニスコートとして使っていた草地のクソミミズ(Pheretima hupeiensis)で、このミミズが1年間に地表に出す糞塊を回収し、ミミズの土壌耕耘量を量的に示した。ミミズが土を耕してくれている、それがどのくらいかを数量的に示したのだが、その当時、この論文は高く評価された。
どんな種類のミミズがいたのか、新種や分布上貴重な種がいたのかも知れないと、研究許可を受け、退職後、土壌動物調査を開始した。
これまでの調査の結果、既知種のツリミミズ科のもの2種、フトミミズ科のもの10種と、種名の決定できないフトミミズ科のもの4種がいることがわかった。同定できたもの12種は、いずれも広い分布域をもつ普通種と思われるものであった。ミミズ類の同定は栃木県立博物館の南谷幸雄さんにお願いしているのだが、この未同定の4種は明らかにこれまで記載されたものとはちがい新種かも知れないという。分類の進んでいる昆虫や植物では採集された1個体でも新種記載ができるのだが、分類の進んでいないミミズ類では同定には内部形態の記載が必須なので、解剖しないといけない。破壊されない個体の模式(タイプ)標本を残さないといけないし、種内変異・個体変異が大きいので、少なくとも数個体以上採集し、その変異を調べないといけない。それがなかなか捕まらない。芦生から新種アシウフトミミズの記載を信じて調査を続けている。
びっくりしたのがシーボルトミミズ(P. sieboldii)の発見である。本種は長崎出島のオランダ商館つきの医師として滞在したシーボルト(Philipp Franz von Siebold)がオランダに持ち帰った標本で新種記載されたもので、日本のミミズで初めて学名をつけられたものである。四国でカンタロウ、紀伊半島カブラタ、カブラッチョ、九州でヤマミミズなどと呼ばれているように、ウナギ釣り、モズクガニ捕りの餌に使うなど、その存在は知られているものだ。暖地性とはいえ、伊豆半島・房総半島にも屋久島以南の南西諸島にも確認されていない。体長30cm、重さ45gにもなる大きなもので、それも金属光沢をした瑠璃色のよく目立つミミズである。
明らかに暖地性と思っていたこのシーボルトミミズが雪深い芦生研究林内にもいた。これまでに赤崎のトロッコ道、野田畑谷、上谷(岩谷)、杉尾峠と、田歌から若狭への五波谷峠などで7個体も捕獲している。一度など、逃がしてはいけないと一瞬に手がでて掴んだのだが、ミミズから粘液を飛ばされ、びっくりした。ミミズの背中にある背孔からでてきたのだろうが、こんな防衛術をもっていることを知った。こんな事例はまったく報告されていない。
このシーボルトミミズの捕獲が、いずれも10月、11月なのである。大きなミミズで成体で越冬することはまちがいないのだから、春でも夏でもいいのに秋しか捕獲されないことも不思議だ。
芦生では、シカの過採食による植生衰退や渓流水質の変化が生じています。シカが増えているのか減っているのかを把握していくことは芦生の生態系を保全していくために非常に重要です。芦生ではシカ生息密度指標の1つとして自動車で林道を走行中のシカ目撃数の調査をしています。この調査は自分の調査の「ついでに」調査をすることが可能です。年に数回しかできなくてもかまいません。調査協力者を募集しています。みなさんの調査の積み重ねが「力」になります。下記の文章をお読みいただき、ご協力いただける方はこちらから調査要領と調査票をダウンロードいただけます。
研究林内のルートA~F(地図参考)のいずれかを移動する際に、目撃したシカの数を記録してください。鳴き声は含めません。調査者がルート上にいる場合は、シカがルート終点より前方にいても記録してください。もっとも大事なのは、目撃したときだけではなく目撃しなかったという場合もゼロ(0)として記入していただくことです。「目撃しなかった」も重要な情報です。ルートの開始地点はルートの両端のどちらからでも構いません。ルートの途中までしか移動しない場合はシカを目撃しても記入しないでください。1日のうち、同じルートを何度か移動する場合も残らず記入してください。ただし、2台以上の車で連なって走行する場合は、先頭の車だけ調査を行ってください。
芦生では、シカの個体群動態を明らかにするために区画法やセンサーカメラ等を利用した生息密度指標調査が行われています。シカ目撃モニタリング調査は「ついでに」調査をしてもらうことで先の2つの調査に比べて、大量のデータを簡易的に取得可能です。複数の調査・大量のデータを分析・統合することで、より精度の高い個体数推定が可能になり、シカの順応的管理のための基礎データになります。
2006年9月1日~2018年12月31日までで180, 002件のデータが収集されました。季節的には秋に目撃しやすく、1日のうちでは朝と夕方に目撃しやすい傾向にあります。また、天気の影響は今のところ検出されていません。一般化加法モデルで解析したところ、2008年~2010年の間では2010年に目撃数が多かったことが示されています。近年、目撃数は減少傾向です。雪の影響や有害駆除数との関係について現在解析中です。
ご協力いただける方はこちらより調査要領と調査票をダウンロードいただけます。
Mizuki Inoue, Sakaguchi Shota, Fukushima Keitaro, Sakai Masaru, Takayanagi Atsushi, Fujiki Daisuke, Yamasaki Michimasa. Among-year variation in deer population density index estimated from road count surveys. Journal of Forest Research 18:491-497, 2013年
髙橋 華江(神戸大学理学研究科生物学専攻博士前期課程)
2017.12.27
生物は他の生物と恒常的に関わっているわけではなく、その関係は季節的に変化します。産卵や開花といった生物の生活史イベントが起こる季節的なタイミング(フェノロジー)は、その生物が他の生物と関わりあう期間の長さや関わり合いの強さを決める要因としても重要です。
同一の種であっても、生息地の標高や緯度などの地理的スケールに沿ってフェノロジーに変異があることは一般的ですが、一つの地域の中にもフェノロジーの変異があることはあまり知られていません。このような小さなフェノロジーの変異は、将来の局所的な気候変動に対する生物の応答を予測する上でも役に立つかもしれません。
そこで私は、芦生研究林に生息するモリアオガエル (Rhacophorus arboreus) の産卵フェノロジーの地域内変異を定量化するため、野外観察を行いました。その結果、4つの集水域(櫃倉谷・幽仙谷・下谷・上谷)のうち、櫃倉谷と上谷では集水域内の池間で産卵タイミングが揃っていること、他の2つの集水域内では、隣り合う池でも産卵タイミングにずれが生じていることがわかりました。
産卵タイミングのピークは異なる集水域間で約17日、一つの集水域内の池間でさえ約8日も異なりました。さらに、産卵が時期的に集中した池ではオタマジャクシの体サイズのばらつきが小さくなることがわかりました。体サイズは、オタマジャクシ同士の競争関係や捕食者であるアカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)からの食べられやすさにも影響を及ぼすため、親の産卵タイミングは子の生存率に影響することが示唆されました(Takahashi and Sato 2015)。
このような産卵フェノロジーのずれが、アカハライモリの移動パターンやオタマジャクシの生存率に与える影響についても実験を行っています。
梅雨の芦生を探索する時には、ぜひモリアオガエルの卵塊がないか探してみてください。
2016年2月16日
Takahashi K, Sato T (2015) Temporal and spatial variations in spawning of the forest green tree frog (Rhacophorus arboreus) in a mountainous area. Herpetol Notes 8:395–400.
http://www.biotaxa.org/hn/article/view/11163/0
私は,上流・下流,季節や年によって様々に変化する川の環境の中で,魚や虫などの生き物たちが食う-食われる,餌や住みかをめぐって競争するなどした結果どのように生き物の集合の全体像,すなわち「生物群集」または「生態系」が形作られるのかに興味があります.研究活動は芦生研究林内を流れる由良川での野外観察がメインです.例えば,これまで単純につながりの有る・無しによって示されることの多かった魚類と水生昆虫の食う-食われるの関係を,魚が1日あたりに食べる量,すなわちお互いの相互作用の強さをより厳密に記述することで,一見多くの種が絡み合って複雑に見える関係の中にも(図1),捕食者と被食者の体の大きさの違いによって相互作用の強さが決まるという単純なルールが存在すること,一方で,多くの生態学の理論の中で言われてきた,餌となる生き物の数の影響(たくさん住んでいる種が食われやすい)は他の要因と比べると実は小さいかもしれないことが示されました.
現在は,そうした観察から得られた生物群集のパターンを生み出すメカニズムについてより深く理解するため,何本も繰り返しのある人口の川を作って川ごとに魚がいる・いないなどの条件を変えて,その結果群集がどう変わるのかを検討する実験を計画しています.
2016年1月29日
※執筆時は京都大学フィールド科学教育研究センターに在籍