仔稚魚とクラゲの関係

沿岸資源管理学部門 益田玲爾

 舞鶴水産実験所の桟橋から毎朝クラゲの数を数えるようになって、今年で8年目になる。一番多いのはミズクラゲ、次がアカクラゲ(写真1)というのは例年変わらないが、今年はやけにアカクラゲが目立つ。
 アカクラゲの触手は長い。本年5月上旬の潜水中に見た個体は、傘の直径は30cmを越え、触手が5m程もたなびいていた。水中でアカクラゲに出会ったらすぐによけるが、濁りがきついときにはよけきれないこともあり、頬をひりひり腫らして海から上がることになる。梅雨時の海の濁りとクラゲとは、悩ましい組み合わせだ。
 似たようなことは、魚たちにも起きているかもしれない。特に生まれて1ヶ月以内のイワシ類の仔魚は、少し濁った海域に多くいて、捕食者の目から逃れている。ところがそこにクラゲがいれば、容易に食べられてしまうであろう。そんな仮説の検証をしているのが、大学院生の大畑君の研究だ。飼育したカタクチイワシ仔魚について、濁りのあるときとないときとで、クラゲによる捕食の程度を比較している。
 一方、クラゲの毒にあまり動じない魚もいる。マアジの稚魚はしばしばクラゲに寄りつき、餌場として、また隠れ家としてクラゲを利用することがわかってきた。我々の行う実験では毒の弱いミズクラゲを用いているが、潜水中にはエチゼンクラゲやアカクラゲなど強毒のクラゲに寄りつくマアジ稚魚をよく見かける(写真2)。
 以前、調査船から網を曳いてクラゲを採集し、その胃内容物を調べていたところ、アカクラゲに取り込まれて死んだマアジとカワハギの稚魚を見つけて驚いたことがある(写真3)。クラゲはこんなに大きな魚も食べるのかとも思ったが、恐らくそうではなく、水中ではクラゲを巧みに利用していた稚魚たちが、隠れ家であるクラゲごと調査用の網に入り揚げられた、というのが真相かと思う。自然相手の仕事では、多方面から調べないと、とんでもない誤解をしてしまうことがある。

ニュースレター17号  2009年8月 研究ノート