センター長挨拶_2011

(資料:2012年度までのセンター長挨拶)

京都大学フィールド科学教育研究センター長 柴田昌三

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 京都大学にフィールド科学教育研究センター(以下「フィールド研」)が設置されてから8年が経過しました。京都大学における地球環境に関する教育・研究を行う3部局の1つとして生態学研究センター、地球環境学堂・学舎に次いで3番目に設置された2003年以降、フィールド研究に立脚したフィールド科学を推進してきたのがフィールド研です。設置当初、私は地球環境学堂・学舎に籍を置いていましたが、2007年2月からフィールド研にまいりました。初代田中克名誉教授の時代をわずかに垣間見たあと、2代目センター長である白山義久教授のもと、副センター長として4年間を過ごしました。
 この間、フィールド研は、研究・教育の最も中心的な柱として提言してきた森里海連環学を軸とする教育研究活動を展開してきました。現在フィールド研では、農学研究科および理学研究科に所属していた北海道、京都府、和歌山県、山口県に所在する10ヶ所の、森、里、海のいずれかを専門領域とする9つの隔地施設を1つの部局として統合したことによって、それぞれの施設を舞台にした森里海連環学的研究と教育が進みつつあります。森里海連環学は荒廃する我が国の自然を再生する中で、かつての日本人が行ってきた自然とのつきあい方を再評価し、さらには新たなつきあい方を模索しようとする試みであり、そのためのさまざまな知見を社会に発信しようとする領域統合的な学問分野です。このような学問においては、講義室や実験室における研究・教育だけでは決して解を見つけることはできません。精度・密度ともに高く、さらにフィールドに密着したさまざまな調査研究を通じてはじめて、意味のある方向性が見いだせると考えられます。このような活動を通じて、フィールド科学に精通した人材を世に送り出すことは大変重要です。フィールド研はそれが可能な多くの施設を全国各地に持ち、森里海連環学を展開しています。
 フィールド研の森里海連環学に関する教育活動としては、京都府由良川、和歌山県古座川、北海道別寒辺牛川の各流域で行われている森里海連環学実習A~Cが代表的なものといえます。これ以外にもフィールド研教員が積極的に行っている全学共通科目の多くが森里海連環学の要素を色濃く持っています。これらの教育活動の一部は日本財団のご支援のもとに維持されています。フィールド研では日本財団からのご支援をさらに発展させ、2012年度からは地球環境学堂・学舎等とともに学内に教育ユニットを立ち上げることも計画しています。教育を通じて、森里海連環学を基礎とする視野を持った研究者を世に出す基盤がさらに確固たるものになりつつあります。また、2011年度からは8施設のうち、舞鶴水産実験所、瀬戸臨海実験所の2施設が、文部科学省から教育共同利用拠点に認定されました。これによって、他大学との教育の共同利用が可能となり、より広範なフィールド科学教育が可能となっています。今後は、農学研究科、理学研究科、地球環境学堂、生態学研究センター、総合博物館など学内の多数の部局との緊密な連携も図りながら、より密度の高い教育を展開していきたいと考えております。
 全国各地に所在する施設はそれぞれ地元と深く連携した教育研究活動も展開しています。フィールド研全体の事業としては、2009年度から概算要求事業(プロジェクト分)として「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」を展開しています。これは森里海連環学を実践し、地域に展開していくことを目指した活動であり、調査研究を通じてその成果を発信し、社会に役立てていただこうという試みです。実際のフィールドは京都府由良川水系と高知県仁淀川水系ですが、それぞれの流域で地元の行政やNPO団体などの深いご理解を得ながら、着実に成果が上がりつつあります。これらの実践活動を通じて森里海連環学を社会にご理解いただき、我が国の自然再生に役立てるモデルケースとすることができれば、と考えております。折しも、2010年は国際生物多様性年、2011年は国際森林年であり、森里海連環学を国内外に展開するには絶好の追い風が吹いていると考えられます。これらの社会情勢を的確に捉えながら、森里海連環学的な自然との共生のあり方を考えていく所存です。
 全球レベルでも森から海に至るつながりの理解を深めることは重要です。フィールド研にはこれまでに実現できていない目標の1つとして、海外拠点の設置があります。そのため、早い時期に拠点の設置を目指し、グローバルな森里海連環学の展開を図りたいと考えております。
 私は3代目のセンター長として、フィールド研設立以後、2人のセンター長のご尽力のもとに森里海連環学の立ち上げとその定着の活動を通して培われてきた成果を、さらに展開していくことを目指すつもりでおります。これまでのフィールド研の活動は、それを支えてこられた4名の名誉教授の先生方、社会連携教授をお引き受けいただいてきたC.W.ニコル氏や畠山重篤氏、社会からの応援団を自認して下さっている方々、社会連携活動を目的とした協定を結んでいる全日本空輸株式会社およびNPO法人エコロジーカフェ、など数々の良き理解者によって維持されてきました。このような関係を維持し、発展させながら、もちろんフィールド研の全スタッフの真摯な努力を持って、豊かな自然環境の再生・創出を考え、次世代以降に引き継げるような成果を挙げるよう、努力していく所存です。皆様にはフィールド研の良き理解者として、これまで以上のご支援、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願いいたします。(センター長就任の挨拶 2011年4月)