石原 正恵

ishihara masae
フィールド科学教育研究センター 森林生態系部門
森林育成学分野 准教授
芦生研究林
E-mail:ishihara.masae.8w*kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)
業績など(教育研究活動DB)

(2017-01-18 公開)

1. 研究分野

  私の専門は森林生態学で、樹木の生態をベースに、森林、特に天然生林の樹木種の多様性や生産性を研究しています。最近は、人間活動と森林の関係にも興味を持っています。

1)分断化と気候変動が西日本ブナ林へ与える影響
 ブナ林は北海道南部から九州まで南北に広く分布しています。西日本のブナ林は人間活動によって分断化が進んでいます。こうした小規模なブナ林は地域のシンボルとして保護されているものの、次世代を見据えた保全に関する取り組みは十分とは言えません。
 そこで、私は他大学・異分野の研究者と協力しながら、野外調査、既存データ、植物動態モデルを用い、遺伝子から個体群、生態系レベルへのスケールアップを試み、分断化および将来の気候変動に対する西日本域のブナ林の脆弱性評価を行おうとしています。

2)森林の多様性と機能
 我々人間と比べると、森はとても広くそして大きく、また長い時間をかけてできていきます。そのため、人間が森を理解するのはなかなか難しいものがあります。
 従来の研究は、個々の研究者が一つの森林、多くてもせいぜい十数個の森林に調査区を作り、データを解析するという手法が一般的でした。そのため、森林間で異なる結果が得られても、調査・解析方法からくる違いなのか、それとも森林間で本当に違うのか、よく分からないという問題がありました。
 そこで私は、数十~数千の多地点データを統一的に解析することで、普遍的な傾向や森林間の違いを見出し、種多様性や生産性を決めるメカニズムに迫れるのではないかと考えています。様々な研究者の方と一緒に、研究ネットワークのデータ、既存文献から収集したデータ、研究者の方に提供していただいたデータを解析しています。
 このような研究スタイルになったのはポスドクとして「モニタリングサイト1000森林調査」(環境省の事業)に関わったのがきっかけでした。全国42ヶ所の天然林における樹木および落葉量のデータを用いて、亜寒帯から亜熱帯の森林における種多様性、炭素循環、生物季節性の地理的パターンを明らかにしました。このプロジェクトの研究者の方々とともにデータペーパーとしてデータを公開しました。
 また森林の構造や生産力の指標である葉面積指数(土地面積あたりの葉面積のこと)を、毎木データとリタートラップデータから推定する新たな方法を開発しました。
 その後、多地点のデータを収集・解析し、全国の天然生林の植物体量を推定できる相対成長式を開発しました。このデータも世界中のデータと一緒にデーターペーパーとして公開しました。
 現在は、森林を構成する樹木の多様性がどのように決まっているのか、森林施業などの人間活動や地球環境変化は、森林の生物多様性にどのような影響を与えるのか、生物多様性の変化は物質生産などの生態系機能にどのような影響を与えるのかといった問いに答えるべく研究を行っています。

3)生態系サービスの持続的利用
 森林は、炭素貯留、木材生産、水質浄化など、様々なサービスを人間社会に供給しています。こうした生態系サービスの持続的な利用のためには、サービスの定量的な評価とともに、サービスを左右する自然・社会的要因を理解することが重要です。
 北海道大学の柴田英昭教授らや北海道立林業試験場の研究者と共同して,政府統計や生態系サービス評価モデル(InVEST)などを用いて、過去40年間の供給・調整サービスを石狩川流域で求め、その空間的な変異や時間的変化をもたらす要因を検討しています。

 またインドネシア泥炭湿地林の火災の発生原因を解明するため、衛星画像を用いた解析を行っています。火災を防ぎつつ生態系サービスを持続的に利用するためにはどうしたらよいかをインドネシアの留学生と一緒に研究しています。
 こうした研究を通し、Future Earthのコアプログラムの一つであるGlobal Land Programmeに貢献できればと考えています。

4)樹木の成長
 樹木は小さな種子から発芽し、20mを超える大きな体を持つようになります。その間に個体をとりまく環境も変化し、体の体制も変わり、花や果実も着けるようになります。稚樹を対象とした研究だけでなく、成熟木も対象とした研究を行うことで、より樹木を理解できると考えています。
 そこで、博士論文では、カバノキ属の樹木を対象に、繁殖と枝の伸ばし方の関係について研究しました。樹種によって花のつく枝が異なること、豊凶周期に合わせて当年枝の生産を変化させていることが明らかになりました。
 また成熟木では樹冠拡張が停滞することが知られています。そのときにどのように枝を伸ばしているのかを、ウダイカンバやミズナラを対象に研究しました。ウダイカンバでは樹冠の内部で短枝(長さ数ミリの短い枝)から長枝(長い枝)を伸ばすことで、樹冠拡張を抑えつつ葉を配置していることを発見しました。またミズナラでは樹冠内萌芽が盛んに行われていることが明らかになりました。

5)豊凶現象
 「今年は柿が生(な)り年だ」といったことを聞かれたことがあるでしょう。柿に限らず、いろんな種類の樹木で結実量が多い年と少ない年があり、こうした年変動が同種の個体間で同調しています。これが豊凶現象です。
 豊凶現象は花や果実を餌とする動物や昆虫の個体数にも影響を与えていたり、森の更新を左右したりと、重要な現象です。しかし、実はこの豊凶現象が起きるメカニズムはまだ解明されていません。
 そこで、芦生研究林でミズメというカバノキの仲間の樹木260本の開花・結実量を2001年から調査し続けています。これだけ多くの本数の木を個体識別し長期間調査したデータは世界的にも希少です。この長期データと数理モデルを組み合わせ、豊凶現象のメカニズムを明らかにしようとしています。

6)シカの採食によるススキ群落の衰退と防鹿柵による回復過程
 芦生研究林長治谷作業小屋前の開地ではススキを主とする草本群落が見られましたが、2007年以降シカの採食により衰退しました。2010~2011年まで「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(木文化プロジェクト)」に関わり、共同研究者とともに、防鹿柵によるススキ群落の種多様性および現存量の回復過程を調査しました。柵設置2年後には種多様性、群落高、植被率および現存量は回復したと考えられました。このように早期に回復したのは、ススキ群落の衰退直後に柵を設置したためと考えられました。

2. 好きなもの,趣味

 登山、食べること、子どもと散策したり絵本を読むこと。森をテーマにした絵本をいつか出版したいです。最近読んでおもしろかったのは、
 『ちいさなちいさな めにみえない びせいぶつのせかい』(文: ニコラ・デイビス、絵: エミリー・サットン):微生物という子どもには伝えにくい生物をわかりやすく説明してくれています。
 『森の暮らしの記憶―パプアニューギニアのマーロン・クエリナドさんのゴゴール渓谷の村のおはなし』(Marlon Kuelinad原著、清水康子 訳):森林からもたらされる生態系サービスが森林伐採によって失われたことが静かにそして感覚的に心に響いてきます。特に文化的サービスが永久に失われるということが印象的でした。授業でも引用させていただいてます。
 『どんぐりかいぎ』(文:こうやすすむ、絵:片山健):どんぐりの豊凶現象のメカニズムを扱った絵本。

3. その他

 樹木の生態や森林を研究するにはとても長い時間がかかります。ついつい目の前のことに追われてしまうのですが、常に10年、100年先のことも考えたいです。
 樹木や森に興味のある学生さんを募集中です。


(フィールド研における経歴とページ履歴 情報整理 2017-01-18)
2016-10-01 森林生態系部門 森林育成学分野 准教授
2017-09-04 ページに教育研究活動DBへのリンクを追加