德地 直子

tokuchi_naoko
フィールド科学教育研究センター森林生態系部門
森林育成学分野 教授
副センター長
上賀茂試験地長
(兼)芦生研究林
(兼)和歌山研究林
E-mail: tokuchi*kais.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)
業績など(教育研究活動DB)

(2003年度公開)

 森林生態系、すなわち、植物-土壌系における物質循環の手法を用いた生態系生態学を専門としています。森林生態系は、植物や昆虫・微生物といった生物と土壌・水・大気などの非生物からなる複合系です。この複雑な系を解く手段として、生物・非生物に共通の貨幣である窒素・炭素などの物質を用いています。


写真は、輪伐によって管理されている森林集水域です。手前から奥に向かって若くなっており、異なる林齢の森林が隣接して並んでいます。

やったこととやっていることとやりたいこと

1 森林土壌における溶存物質の空間的異質性
 森林生態系において、直接植物と関連し、その生産性を決定する土壌溶液中の溶存物質について、その空間的異質性を調査しました。特に、わが国では森林=山地斜面であり、これまで多くの研究がなされている諸外国(北米・欧州)に較べ地形が急峻であることがその特徴のひとつとなっています。そのため、斜面に注目し、斜面上の位置によってどのように溶存物質が異なるかを明らかにしました。調査の結果、斜面上には異なる植物が存在し、植生が異なるのと同様に、小さい斜面においてもその上部と下部では土壌溶液に含まれている溶存物質が大きく異なり窒素の循環機構がちがっていることが明らかになりました。

2 森林生態系における窒素循環機構の生物的エネルギー利用からの解明
 窒素は、土壌中に多量に含まれます、ほとんどが有機態として存在するため、植物に利用可能な無機態・低分子の窒素は少なく、温帯の植物にとって成長の制限要因となりやすい状態にあります。本研究から、有機態窒素から無機態窒素への形態変化の規定要因として、土壌中の可給態炭素が重要であることが明らかになりました。

3 森林土壌における窒素循環の規定要因
 現在の地球環境変化が生物圏に与える影響、およびその応答を明らかにする目的で、森林生態系の窒素循環の規定要因の解析を行いました。その結果、蓄積している炭素量の増加に伴い森林生態系の窒素循環が安定することが示されました。

4 森林生態系からの渓流水の水質と養分物質収支
 地球環境情報収集の方法の確立に関する研究の一部として、ここでは地球環境の変化を鋭敏に示す指標として、森林生態系からの流出水の水質を取り上げました。森林流域からの渓流水の水質は、これまで扱ってきた森林生態系内部の高度に異質な物質循環を総合的に評価できるインデックスのひとつです。そのため、森林小集水域で長期にわたって渓流水の水質をモニタリングすることによって、環境変動の影響や、内部の物質循環に生じた変化が検出できます。ここでは、 1989年から渓流水の水質を調査している大津市の桐生集水域で、1980年代からわが国で猛威をふるったマツ枯れが森林生態系の物質循環にどのような影響を与えるかを考察しました。通常の状態ですと、森林は施肥などされずに養分を閉鎖的に循環させることで永続的に存在しつづけますが、マツ枯れで樹木が枯死すると、物質循環の機構に変化が生じ、それまで蓄積されてきた養分を放出してしまうことがわかりました。マツ枯れによって大量の樹木が枯死することは、その他の要因によって森林が撹乱を受けた場合をも想定できます。

5 緯度系列に沿った物質循環機構の比較研究
 地球環境が生物圏に与える影響を推定する目的で、日本を含むモンスーンアジアでの生物反応に関して調査を行いました。ここでは、タイ国においてタイ国を代表する異なるタイプの森林生態系を対象とし、森林生態系における炭素・窒素蓄積と、窒素循環の季節変化について調査を行いました。その結果、乾燥の影響の強い森林タイプに比較して湿潤で温帯に近い森林タイプほど炭素・窒素蓄積が増加し、窒素の循環が年間を通じて行われており、乾燥の強い地域で窒素循環は不安定であることが示されました。これらのことより、地球環境変化の影響が、乾燥の強い地域でより明瞭に現れることが推察されました。

6 酸性降下物による土壌の酸性化機構の解明
 土壌中の窒素循環は、窒素の形態変化に大きく影響されます。量的に最も多い有機態窒素は、アンモニア態を経て硝酸態に変換されるますが、この硝酸生成に伴い、プロトンも生成されます。近年窒素を含む酸性降下物が増加しており、この結果陸上生態系に過剰に窒素が供給された場合、供給された窒素の形態がアンモニア態であった場合、土壌中での硝酸生成が土壌を酸性化させる原因の一つとなっていることが示されました。

7 窒素を含む酸性降下物が森林生態系の木本樹種に与える影響(継続中)
 窒素を含む酸性降下物が森林生態系の窒素の循環に大きな影響を与え、土壌中の無機態窒素の形態が硝酸態にシフトすることが、前述の研究からもわかりました。土壌中の無機態窒素は植物にとって重要な栄養源です。この無機態窒素の形態にみられた変化が、植生の分布などにどのように影響するかを調査しました。その結果、植物には、硝酸態窒素を使える種と使えない種があり、現在、植物はその利用可能な窒素の形態と対応した分布を示していることが明らかになり、今後土壌中の無機態窒素の形態が硝酸態窒素のみに変化すると、これまでアンモニア態窒素を利用していた植物の分布範囲に影響が生じることが予想されました。現在は、植物の無機態窒素の利用について、季節的な変動などを含むさらに詳細な調査を行っています。

8 森林の成立に伴う物質循環機構の変化(継続中)
 森林が成立するまで、森林生態系において植物-土壌系における各コンパートメントの比重は大きく変化します。すなわち、森林が成立する以前では、土壌が主体となっており、森林が成立した後ではバイオマスにおいて圧倒的に大きい植生の影響がクローズアップされます。このような傾度において、森林生態系の物質循環はどのように変化するのでしょうか?これまでにも多くの研究がなされています。しかし、それらの研究は森林の寿命が長いことや森林というものが大きな単位(何haも!)であることから、林齢の異なる森林をよせあつめて行なってきました。これに対して、私たちは輪伐という林業形態で経営されてきた森林に注目し、同一地域に隣接して林齢が異なる森林集水域を対象としています。このため、物質循環の変化に及ぼす様々な影響から、ほぼ森林の発達段階という要因のみを抽出することができます。現在までに、この森林では”同一気候・地質条件下では、森林の撹乱後の成立に伴う渓流水質の変化は同様に繰り返される” という結果が得られています。このことは、この森林流域を対象とすることで、森林の成立(ここでは約90年)の変化が一度に得られることを示します。多くの若い研究者との共同研究で、これからこの森林で様々なことが明らかになると期待しています。
 この研究は、文部科学省科学研究費・森林総合研究所との共同研究です。

9 森林施業が森林生態系の物質循環に与える影響(継続中)
 わが国の森林は、人工林が高い比率を占めています。ところが、近年外材の輸入や木材建築の低迷などからの林業の不振により、これらの人工林への施業の遅れが目立っています。人工林は、もともと木材生産に特化して作られたいわば”木の畑”ですから、手入れをしないと木材がきちんと生産されないばかりか、山の状態も天然とは異なり、山をあらす原因となります。これらのことは、多くの人々が指摘していますが、定量的なデータは乏しいのが現状です。そこで、和歌山研究林の手入れが行なわれている森林と手入れが遅れている森林において、それぞれの物質循環の比較を行っています。また、手入れ不足の森林に手入れをすることでどのような変化が現れるかを追跡します。
 この研究は、河川財団の後援を受けています。

10 流域環境の質と環境意識の関係解明―土地・水資源利用に伴う環境変化を契機としてー(継続中)
 ここでは8のサイトを用いて、ダム建設・施業など様々な要因による森林生態系の環境変化を流域住民に問い、住民の利益と環境の変化についての調査を行い、どのような環境変化が受け入れられるか、あるいは、環境とは意識の中でどのような位置を占めているのかを明らかにしていきます。8の森林生態系における物質循環は、仮想的な森林を表現するためのパラメーターの抽出などにも用いられます。
 この研究は、文部省地球環境学研究所との共同研究です。
 http://www.chikyu.ac.jp/rihn_13/rihn/project2009former/E-02.html

11 シベリアにおける森林生態系の窒素循環機構の解明(継続中)
 シベリアには永久凍土層が発達し、温帯・冷温帯とはまったく異なる森林生態系が存在します。ここでは、温帯・冷温帯において成立してきた自己間引きが成立しないという報告があります。この原因のひとつとして、火事により更新する森林生態系が発達すると、地表面の温度が下がり、永久凍土層が地表面近くにくるため、植物にとって有効な土壌層位が減り、窒素などの養分が制限要因になるのではないかと考えられています。そこで、シベリアにおける森林生態系の窒素循環を解明するとともに、森林への窒素施肥を行い、制限を解除すると森林のバイオマスは大きくなるか、という実験を行います。
 この研究は、地球環境推進費による”21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究”の中で、森林総合研究所と共同で行なっています。

12 森林生態系-低地生態系-沿岸域生態系の連結(継続中)
 個々の生態系は、連結する生態系にとっての流出源であり収入源となります。すなわち、森林生態系は独立して維持されているように見えますが、その隣には異なる生態系が存在し、森林生態系(わが国では通常は最上流部に位置する)から流出してきたものを受け取って、生態系を維持しています。これらの連結はどのようになっているのでしょうか。また、現在、地球レベルでの物流による物質分布の不均衡、汚染の集中が生じています。これは、個々の生態系の生産性・浄化能などの機能以上のものがその生態系にもたらされたことによります。個々の生態系を扱うだけでは、これらの問題は解決されません。もちろん、人為によって生じたこれらの弊害を解決するには、様々なアプローチが必要ですが、多くの生態系を総合的に扱い、その機能を十分に発揮させることで、問題の緩和がはかれるのではないか、と期待しています。

13 森林生態系生態学を長期行なえる研究サイトの設定!(継続中)
 生態系生態学は、対象が植物・昆虫・微生物・土壌・大気・水などなどなどと対象が多岐にわたるため、とても個人ではフォローしきれません。多くの研究者がプロジェクトを組んで、行なうのが理想です。また、生態学の研究において長期にそのサイトを運営することの重大さ、困難さはいうまでもありません。そのための適切な研究サイトを選定するのは非常に困難ですが、京都大学は多くの研究林を所持しており、それぞれがわが国を代表するすばらしい森林です。現在、生態学の若手研究者を中心に長期生態学研究サイトの設立に関する動きがあり、なんとかわれわれの研究林も参加したい、と考えています。2003年9月にシアトルで開催されたアメリカの生態学長期研究(Long Term Ecological Research: LTER)に関する研究会に参加しました。大会にはInternational LTERに関する部会があり、各国の取り組みも非常に参考になりました。
 この課題については、新潟大学の本間航介先生代表の科学研究費も使わせていただいています。


(フィールド研における経歴とページ履歴 情報整理 2015-10-26)
2003-04-01/2012-08-31 森林生物圏部門 森林生態保全学分野 助教授(2007-04から准教授に職名変更)
2003-04-01/2009-11-30 和歌山研究林長
2003年度 http://fserc.kais.kyoto-u.ac.jp/main/staff/tokuchi.htm でページ公開 (現内容とほぼ同じ)
2009-12-01/2011-03-31 北海道研究林担当
2011-04-01 http://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/staff/tokuchi にページ移設
2011-04-01/2013-03-31 和歌山研究林長
2012-09-01/2013-07-31 森林生物圏部門 森林生態保全学分野 教授
2013-04-01/2015-03-31 芦生研究林長
2013-08-01 森林生態系部門 森林育成学分野 教授 (部門分野名変更)
2015-04-01 上賀茂試験地長 (兼)芦生研究林担当
2016-04-07 (兼)和歌山研究林担当