フィールド研10周年記念プレシンポジウム「流域研究と森里海連環学」開催報告

森林資源管理学分野 教授 吉岡崇仁

(当日撮影された動画と発表資料が京大OCWで公開されました。(2013-02-04 追記))

 このプレシンポジウムは、2012年12月2日(日)、京都大学百周年時計台記念館2階の国際交流ホールで開催されました。第1部『流域研究の今』では、5つの河川流域での研究事例が紹介されました。豊田市矢作川研究所の間野隆裕総括研究員からは、「矢作川」流域に関して、流域環境の保全に関する諸団体との連携により、「矢作川川会議」や「矢作川学校」の運営、「矢作川森の健康診断」など先駆的な活動が行われていることが紹介されました。北海道大学の上田宏教授は、「天塩川」流域での研究として、サケの母川回帰の際に、河床微生物が河川水中に放出するアミノ酸組成をニオイとして母川を識別していることから、サケ資源の保全には河床の保全を含む総合的な流域管理が必要であることを紹介されました。広島大学の山本民次教授からは、「太田川」流域に関して、間伐や複層林化による森林整備、カキ殻を硫化水素やリンの吸着材として利用する例など興味深い事例をもとに、太田川-広島湾の環境保全、再生計画について、地方自治体等を含む取り組みが紹介されました。続いて、京大フィールド研が実施している「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」から、「仁淀川」と「由良川」の研究を紹介しました。「仁淀川」については、長谷川尚史准教授から、流域で進められている間伐施業が森林・河川生態系に及ぼす影響や地域社会の経済や文化に与える影響を総合的に調査していることを、「由良川」に関しては、私吉岡から、土地利用と河川水質の関係のほか、河口域での水の動きのモデル化と生態系モデルの開発について紹介しました。
 第2部パネルディスカッション『流域研究から見た森里海連環学』では、パネラーとして元環境省自然環境局長の小林光氏と京大学術研究支援室の田中耕司室長をお迎えして、「流域研究」と「森里海連環学研究」の違いについて討議しました。小林氏からは、これからの環境研究について、将来どうなるのかという予測と、どうすべきなのかについての強いメッセージ性が必要であることが指摘され、また、現在、多くの地域から人がいなくなるという地域の崩壊が進行しており、日本の国土の将来がどうなるのかと考えるととても不安であるので、「森里海連環学」に期待するという応援メッセージもありました。田中氏は、森・川(里)・海の三次元空間に生物から循環という広がりの概念を加えたうえで、報告された研究事例を位置づけて整理されました。さらに、「なぜ循環ではなくて連環なのか?」と問いかけられ、報告者からは、地域との繋がり、社会制度との関係などの観点から発言をいただきました。参加者は約200名で、質疑応答も活発に行われました。また、会場では流域研究に関わるNPO 法人のパネル(16面)や「木文化プロジェクト」の成果がポスターで展示され、「森里海連環学」についての理解が深まった有意義なシンポジウムとなりました。

ニュースレター29号 2013年2月 社会連携ノート


 フィールド科学教育研究センター10周年記念プレシンポジウム「流域研究と森里海連環学」を百周年時計台記念館にて開催し、約200名の参加がありました。このシンポジウムは、森里海連環学教育ユニットと共催し、京都府教育委員会と京都市教育委員会の後援、公益財団法人日本財団からの助成および、生物地球化学研究会、NPO法人エコロジー・カフェ、NPO法人シニア自然大学校、フィールドソサイエティーからの協賛を受けたもので、2003年に発足したフィールド科学教育研究センターが提唱している「森里海連環学(もりさとうみれんかんがく)」の成果を報告するとともに、全国の「流域研究」と比較しながら今後の方向性について検討しました。

 第1部の「流域研究の今」では、5つの河川流域での事例を紹介しました。まず、「矢作川」に関しては、豊田市矢作川研究所の間野隆裕 総括研究員から、流域環境の保全に関する地域住民の活動が活発であったことから、それら諸団体との連携が進んでいる事例が紹介されました。「矢作川 川会議」や「矢作川学校」の運営、「矢作川森の健康診断」など先駆的な活動が行われているという印象が強く残りました。「天塩川」では、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの上田宏 教授から、サケの母川回帰が、河川水中のアミノ酸組成がニオイとなって母川の識別に使われていることを紹介されました。河川固有のアミノ酸組成を決定する要因に河床微生物によって構成されるバイオフィルムがあり、サケ資源の保全にはこのバイオフィルムの保全などを含む総合的な流域管理が必要であると強調されました。「太田川」では、広島大学生物圏科学研究科の山本民次 教授から、太田川-広島湾の環境保全、再生計画について、地方自治体等を含む取り組みが紹介され、間伐や複層林化による森林整備、カキ殻を硫化水素やリンの吸着材として利用する例など興味深い事例が話されました。「広島湾再生行動計画」の骨子が、森・川・海の健やかな繋がりを活かし、めぐみ豊かで美しく親しみやすい広島湾を保全・再生することであると紹介されました。続いて、フィールド科学教育研究センターが「森里海連環学」を実践している概算要求事業「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(略称:木文化プロジェクト)」から、「仁淀川」と「由良川」の研究を紹介しました。同センターの長谷川尚史 准教授は、「仁淀川」流域で進められている間伐施業が森林、河川生態系に及ぼす影響や地域社会の経済や文化に与える影響を総合的に調査している旨を講演しました。「由良川」に関しては、同センター吉岡崇仁 教授から、土地利用と河川水質の関係、とくに硝酸態窒素、溶存鉄に関する調査結果を報告したほか、河口域での水の動きのモデル化と生態系モデル開発について紹介しました。また、国産材に関する人びとのイメージなど社会調査に関しても話題として取り上げました。

 第2部のパネルディスカッション「流域研究から見た森里海連環学」では、第1部の講演者に小林光 元環境省自然環境局長、 田中耕司 本学学術研究支援室長の2人をパネラーに加えて、「流域研究」と「森里海連環学研究」の異同について討議しました。小林 元局長からは、これからの環境研究について、将来どうなるのかという予測と、どうすべきなのかについての強いメッセージ性が必要であることなどが話されました。また、現在、多くの地域から人がいなくなるという地域の崩壊が進行しており、日本の国土の将来がどうなるのかと考えるととても不安であるので、「森里海連環学」に期待したいという応援メッセージがありました。一方、田中室長は、森・川(里)・海の三次元空間を生物から循環という広がりの概念を加えて、報告された研究事例を位置づけて整理しました。さらに、「なぜ循環ではなくて連環なのか?」という問いかけがあり、これに対して報告者それぞれが、地域との繋がり、社会制度との関係などの観点から意見を述べました。参加者からの意見や質問も活発であり、また、会場では流域研究に関わるNPO法人のパネルや「木文化プロジェクト」の成果がポスターで展示され、学会並みの盛況となりました。

 一般参加者のみならず、研究者にとっても「森里海連環学」についての理解が深めることのできた、有意義なシンポジウムとなりました。

(参考)
シンポジウム案内ページ
 
吉岡先生による開催報告 生物地球化学研究会ニュースレター 第2号(2012年12月26日発行)