「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(木文化プロジェクト)」終了

木文化プロジェクトリーダー 吉岡 崇仁

 2009年に文部科学省の概算要求特別経費(プロジェクト分)に採択された「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」(略称:木文化プロジェクト)は,2014年3月に5年間の研究を終了した。本プロジェクトは,京都府由良川流域と高知県仁淀川流域において,森から海に至るすべての生態系間の連環を研究する森里海連環学研究を推進する目的で取り組んだものである。森林管理による森林流域環境の変化と,地域社会での森林資源の利活用に関して,自然科学的評価と人文科学的評価の双方の結果を統合することにより,地域循環木文化社会創出に向けた研究を行った。プロジェクト期間中を通して,関連する地方自治体や地元住民の皆さまのご協力をいただいたこと,厚くお礼申し上げるとともに,関わった全ての教職員,学生,院生に感謝の意を表する。
 木文化プロジェクトでは,由良川,仁淀川両流域における森林・河川調査を中心に,由良川流域では,河口沿岸域の調査も実施した。人工林における間伐施業の作業効率に関する考察や施業が及ぼす森林と渓流生態系への影響を解析した。また,森と海の連環を象徴する溶存鉄と腐植物質の動態に関しては,海洋への溶存鉄の供給には,森林だけではなく,中下流域での人間活動も影響を及ぼしていることなどが示唆された。由良川流域の最上流に位置するフィールド研の芦生研究林では,シカ食害による森林生態系への影響についても研究を行った。下層植生や草原生態系における生物多様性への影響の他,渓流水生生物群集に及ぼす影響などが解析された。研究計画後半になってからであるが,フィールド研の芦生研究林のスギ人工林において,間伐施業を行い,土壌窒素循環や下層植生等への影響解析を開始した。一方,里と森との連環に関しては,社会調査班を構成して,木文化サロンにおける木質バイオマス利用に関する情報交流や森林・国産材に関する意識調査に加えて,仁淀川町では,住民参加によるワークショップ「みんなで仁淀川町の未来を考える会議『仁淀川の未来の話をしてみませんか?』」(2013年8月24日)を開催した。
 成果の公表に関しては,今までに数多くの国内,国際学会での発表,学術雑誌への論文掲載の他,国際シンポジウム「Integrated Coastal Management for Marine Biodiversity」(2010年1月14~15日),「International Symposium on the Connectivity of Hills, Humans and Oceans (CoHHO):Integrated Ecosystem Management from Hill to Ocean」(2013年11月26~28日)を開催した。また,社会連携活動として,由良川,仁淀川流域をはじめとする地域での連携講座や京都大学百周年時計台記念館での時計台対話集会などを開催してきた。

年報11号