旧台湾演習林ガラス乾板と故吉村助教授撮影16mmフィルムのデジタル化

森林資源管理学分野 准教授 安藤 信
企画情報室 技術班長 槇田 盤

 京都大学に残される資料を保存し活用する研究資源アーカイブが,2011 年度から研究資源化プロジェクトの公募を開始したため,フィールド研の本部事務倉庫に保管されてきた旧演習林資料を対象に申請したところ,採択された。2012年度は,旧台湾演習林で撮影されたガラス乾板約150 枚,オリジナルの紙焼き写真462 枚,さらに,劣化が進んでいる16mm 映像フィルム29 本などを対象に,デジタル化するとともに,これら資料の内容を確認する作業を進めた。ガラス乾板と16mm フィルムは専門業者によってデジタル化され,より確実に保存するために中性紙などを利用した保管箱に収納するとともに,紙焼き写真は総合博物館で接写が行われた。
 旧台湾演習林のガラス乾板の写真には,1940 年頃までに現地で撮影された植生,マラリアの特効薬であるキニーネの原料となる規那(キナ樹)栽培の様子とともに,現地の「蕃族」(先住民)の風俗なども記録されていた。これらの写真は1990 年頃に整理し一部を農学部70 年史などで利用したが,今回,紙焼き写真とともに網羅的にデジタル化されることによって利便性が著しく高くなった。
 「賜天覧」と表紙に書かれた台湾演習林での規那栽培を記録した写真帳については,その経緯は不明であったが,京大文書館に残されていた資料などによって,1940 年6 月11 日に京都帝国大学の研究業績を天皇陛下に紹介する際に,現地から空輸された3 種類の規那の花などとともに京都御所で展示されたものであることがわかった。
 16mm フィルムは,故吉村健次郎助教授が1970 年頃から撮影,編集したものであった。吉村は,1962 年に農学部附属演習林助手に採用され,芦生演習林勤務を経て,1966 年から1975 年まで北海道演習林に林長として勤務した。16mm フィルムのうち,知床半島の記録映像は,1970 年から6 年かけて縦走しながら撮影されたもので,知床横断道路が1980年に開通する前の植生が記録された貴重なものであった。1970 年のメンバーはすべて当時の北海道演習林の職員であり,1973 年のメンバーには竹内典之(1971 年から北海道演習林勤務・現フィールド研名誉教授)が含まれている。芦生演習林での雪下ろし風景,北海道演習林標茶区構内や徳山試験地事務所の光景も記録されている。また,吉村が精力的に研究していたクマはぎの原因探求に関連して,1977 年北海道大学天塩演習林での映像,1981 年の岐阜クマ牧場での実験観察記録映像などがあった。さらに,生態学者である故今西錦司(京都大学名誉教授)が1980 年に北海道で登山するのに同行した際の記録映像のほか,1981 年頃の三重県での人工降雨実験の様子,1982 年に知床半島の稜線上でシレトコスミレの個体数調査をした記録映像などが残されていた。
 フィールド研に蓄積されている映像は,現在の植生などと比較することもできる貴重な資料として確実に後世に伝えるとともに、扱いやすい形として活用していきたい。今後,残る旧樺太演習林,旧朝鮮演習林などのガラス乾板写真(約550 枚)や紙焼き写真,各施設に残されている調査記録などのアーカイブ化を進めていきたい。また,新たに発見された写真や資料と照合することによって,今回アーカイブ化した資料の精査も進めたい。なお,アーカイブ化された映像は,京都大学デジタルアーカイブシステム で公開される予定である。

年報10号  2013年11月 p.12