森林資源管理学分野 教授 吉岡 崇仁
有害鳥獣捕獲を通じ芦生の森の植生回復,知井地区の農林業被害の軽減を図ることを目的とした「知ろう,守ろう芦生の森シンポジウム -豊かな森の再生に向けて-」を,芦生地域有害鳥獣対策協議会(以下,協議会),南丹市,京都府南丹広域振興局との共催で開催した。このシンポジウムの趣旨は,シカ食害やナラ枯れの影響で,植生に大きな被害が出ている芦生の森の現状を広く一般の人びとに伝えることである。今回のシンポジウムは,2011 年の「知ろう,守ろう芦生の森シンポジウム -芦生の森が問いかけているもの-」に続く第2 回目である。100 名を超える参加者があり,盛況なシンポジウムとなった(写真左)。
基調講演では,「芦生生物相保全プロジェクト」での活動を中心としてシカ食害影響に関する研究が詳細に報告された。また,「スチュワードシップ」という語を用いて,豊かな森,自然を残すことは,現世代の責任であり,人間に対してだけではなく,生物や地球に対する責任でもあると強調された。この責務を果たすために,地域住民やボランティアなど裾野の広い活動が必要であると述べられた。「知ろう:芦生の森からの活動報告」では,協議会関係者4 名がそれぞれの立場から,活動内容を報告した。シカの有害捕獲実施者である藤原氏から,捕獲事業の問題点が指摘された。藤原氏の,シカを捕獲するだけでは殺生になる,獲ったシカの肉をありがたくいただくことで供養になるという発言には重みが感じられた。また,植生調査ボランティア活動(写真右)に関しては,芦生研究林の枕谷にシカ排除実験地を設置して,下層植生の回復過程の調査が始まったことが披露された。昼食時には,藤原氏に用意していただいたシカ肉料理が試食として供され,昼食会場(京都大学生協北部食堂2 階喫茶ほくと)は大盛況であった。シンポジウムの内容と共鳴し相乗効果があったものと考えられる。
午後のパネルディスカッション「守ろう:豊かな森の再生に向けて」では,午前の部での講演者への質問のほか,「豊かな森」を守るための質問や提案が活発に出された。議論の多くに共通したのは,森を守るためにはまず森のことをよく知ってもらい,興味を持ってもらうことが重要であるということであった。美山町自然文化村の大野氏からは,エコツーリズム等のイベントでのリピーター率が3 割程度と高いことから,芦生の森のすばらしさを知ってもらえていること,芦生の森の危機的現状についても認識してもらえていることなどが紹介された。森や自然を「守る」ことへの教育の貢献についても取り上げられ,森を育てると同様に教育に長い時間が必要であるといった議論がなされた。会場の漁業関係者からは,森と川のつながりに関する話題が出され,フィールド研が提唱している森里海連環学についても紹介することができた。
年報10号 2013年11月 p.11
(参考)イベント案内ページ