森林生態系部門 白澤 紘明
森林内の道路網(以下「路網」)は森林施業を実施する上で欠かすことのできない基盤です。車両が通行できる路網があって、人は初めて木材資源に到達でき、木材の輸送が可能になるといっても過言ではありません。路網がなければ、施業地まで延々歩いて行かねばならず、伐採現場から重たい丸太を担いで運ばねばなりません。林業を成立させるためには、十分な路網整備を行い、木材資源の利用可能性を高める必要があるのです。
しかしながら、日本の路網整備はあまり進んでいないのが現状です。その原因のひとつとして、森林域における地形条件の厳しさが挙げられます。単純な話、急峻(きゅうしゅん)で複雑な地形に路網を設計・作設することは技術的に難しいのです。路網の設計には様々な制約がついて回ります。例えば、カーブがきつすぎては車両が曲がれないので曲線半径を一定値以上にする、坂がきつすぎては登坂できないので縦断勾配を一定値以下にする、といったものです。設計者はこういった制約を満たし、かつ作設費用や環境への影響を最小限に抑える路網計画を作成しなければなりません。地形条件の厳しい森林では制約を満たす計画を作成することでさえ、至難の業です。
そこで私は路網計画の作成支援を目的とした研究を行ってきました。そして現在は、研究成果に基づき、住友林業株式会社と共同で路網計画アプリケーションを開発しています。インタラクティブな操作によって、作設費用や制約を満たす度合いを視覚的に把握しつつ、道路線形を画面上で設計することができます。加えて、目的地点間を最適に結ぶような自動設計も可能です。従来通り紙上で計画を作成する場合と比べ、アプリケーションを使用することで、作成業務の効率化、計画自体の最適化が格段に進むものと思っています。
開発中のアプリケーションは京都府京丹波町に導入され、京丹波森林組合で森林施業プランナーの方々が実際の業務に使用する予定です。近年、森林域においても、航空レーザ測量によって、詳細な地形データが容易に入手可能になっており、本アプリケーションの有用性はますます高まるものと思われます。アプリケーションの普及が、より良い道づくりの実現、ひいては路網整備促進の一助になることを願っています。今後も研究成果を林業の現場に役立つツールとして還元していければと考えています。
ニュースレター36号 2015年6月 研究ノート