森里海連環学実習A(芦生原生林ー由良川ー丹後海コース)

沿岸資源管理学分野 上野正博


 由良川は芦生研究林に源を発し,京都府中央部を流れ日本海にいたる.幹線流路延長147km,全国19位の大きな川で,百人一首の「由良の渡を渡る舟人舵も絶え...」や山椒太夫の舞台として有名な河口域をはじめ,中下流域には多くの遺跡・古墳が散在し,元伊勢・何鹿(いかるが)・志賀・物部など古代文明とのつながりを思わす地名がたくさんあって,流域は古くから開けていた.しかし,下流域が極端に緩勾配のため,古来,大洪水が絶えず,15世紀末,中流の福知山盆地で河川改修を行った明智光秀は神として祀られている.2004年23号台風のもたらした洪水でバスの屋根に取り残された方達の救出劇を記憶されている方も多いと思う.
 この由良川を4泊5日で源流から河口まで丸囓りする森里海連環学実習を今年も8月5日から行った.昨年まで,芦生研究林事務室から上流はバスで源流まで上がってから長治谷まで下るという楽ちんコース.今年は研究林技術職員の皆さんが推薦する支流の櫃倉谷川源流部のシャワークライミングに初挑戦した.
 NPO法人芦生自然学校のサポートを得たシャワークライミングは,滝ジャンプや大石の虚(うろ)にひそむヤマメやイワナの手づかみなどもあって,実習生だけでなく教職員やTAたちも大喜び.もちろん,水生動物調査や森林観察もちゃんと行いました.
 翌朝からは恒例の川を下りながらの水生昆虫・魚類調査と水質観測.教職員とTAの漁獲能力が向上したおかげか,今年は各所でアユが大漁.この時期にしては巨大な20センチ級も多数.ただ,天然アユが遡上する中・下流ではやっと10センチを越えたものと20センチ級が混在していた.放流アユは加温育成技術の進歩や釣り人の欲求で年々大型化と早期放流が広まっている.つまり,天然アユが遡上してきても良好なニッチェは放流魚が占領していて天然アユは十分に成長できない可能性がある.2群に分かれたアユの小さい方が天然,大きい方が放流だとすると,放流をやめない限り天然はじり貧...しかし,放流をやめると内水面の漁業協同組合にとって大きな収入源である釣り人からの入漁料収入が激減し,組合そのものが存立できなくなる.今年から天然アユの研究に着手した舞鶴水産実験所の面々にとって,重い課題を突きつけられた実習であった.

ニュースレター15号 2008年11月 教育ノート