第1回由良川フォーラム

里海生態保全学分野 山下 洋


 京都大学フィールド科学教育研究センターは、河川を通した森、里、海の生態学的なつながりの機構を解明することを目標に、新しい科学領域として「森里海連環学」の創生にとり組んでいます。この森里海連環学の核となる研究プログラムとして、由良川の源流が発するフィールド研芦生研究林と由良川河口の舞鶴市にある舞鶴水産実験所では、由良川流域を中心とした「若狭湾・流域プロジェクト」を実施しています。一方、京都府は、平成16年10月の台風23号により北部地域に甚大な被害を受けたことから、災害に強い地域作りを長期的な視点で進めるために、モデルフォレスト事業を構想しています。そこで、由良川流域に関する様々な情報の整理、由良川流域の環境保全のために活動するNPOなどの諸団体の実態の把握、官民の交流と学習などを目的として、京大フィールド研と京都府が共同で由良川フォーラムを設立しました。由良川中流に位置する綾部市において、平成17年9月3日(土曜日)に開催された第1回由良川フォーラムのプログラムは以下の通りです。
●講演
「川の環境を考える -縄文の川、弥生の川-」
新潟大学工学部教授 大熊 孝 氏
●地域からの報告
1「由良川について」     舞鶴工業高等専門学校 川合 茂氏
2「由良川源流の森林の現状」 京都府指導林家 小林直人氏
3「活動報告」
①(特)由良川流域ネットワーク
②里山ねっと・あやべ
③京都府漁業協同組合連合会
準備期間が短く、また、開催が稲刈りシーズンの週末であったにもかかわらず、目標を越える120名の人々の参加があり、事務局一同胸をなで下ろしました。とくに、農協や農業に関係する団体の人々からは、次回は田植えと稲刈りの時期をはずよう要望がありました。フォーラムでは、まず新潟大学の大熊孝教授から、堤防や流域全体を使った治水が紹介され、ダムに頼らない治水の考え方と問題提起が新鮮でした。舞鶴高等専門学校の川合茂教授からは、由良川の治水の歴史とこれからの防災計画について、明智光秀の功績やカッパ文化などを混じえつつ、幅広い視点で講演がありました。また、林業経営だけでなく林業教育にも熱心に取り組んでいる小林直人氏からは、林業を取り巻く環境の厳しさとそれを克服するための地産地消の試みなどが紹介されました。手入れがされずに放置されている人工林をめぐる社会・経済的な問題の深刻さが理解されました。活動報告では、とくに由良川流域で活発な活動を行っているNPO法人2団体と、漁師による植林運動を展開する京都府漁業共同組合連合会から活動の紹介があり、それぞれのユニークな取り組みが注目されました。このほか、いくつかのNPOからは、パネルによる活動紹介が行われました。また、7月に京大フィールド研と交流協定を結んだNPO法人「エコロジーカフェ」からも事務局の宮川博子さんが手伝いに来てくださった。この場を借りてお礼申し上げます。参加者のアンケートによる意見も好評であり、次回のフォーラムでは川の生物を議題とした講演を望む声が多かったようです。
由良川フォーラムでは、地域の具体的な問題を取り上げ、関係する団体のメンバーによるワークショップを予定しています。このようなワークショップを中心に、森造り事業などを検討する円卓会議へと発展させる計画です。

ニュースレター6号 2005年11月 ニュース