ILASセミナー報告2019「森と海と人のつながり」

森林育成学分野 教授 徳地 直子
森里海連環学分野 特定助教 赤石 大輔



 ILASセミナー「森と海と人のつながり」は、森里海連環学の目指す流域・沿岸域の統合管理を考える上で必要となる社会連携等の基礎的理解を目的として実施しました。講師は野生動物研究センターの福島誠子特定助教を含む3名が参加しました。また、森里海連環学教育研究ユニットから清水夏樹特定准教授と法理樹里特定研究員に講義を支援いただきました。参加者は1回生7名でした(農学部4名、工学部3名)。
 講義では、森里海の連環が私たちの社会や生活とどのように関わっているのかについて整理し、その上で、森里海の連環を取り戻すということは何を意味するのか、これまでどのような取り組みがなされてきたのか、持続可能な社会を作って行くには何が必要で、どうしたらよいのかなどについて、多面的に考える議論を行いました。
 最初の講義では入学して間も無い1回生の状況に配慮し、参加者同士での意見交換を行いました。導入として大阪府吹田市と能勢町のパートナーシップを、上流の里山環境を保全する中山間地域と、消費地である大都市との支え合いの取組として紹介しました。その上で、参加者それぞれの出身地やどの河川の流域に住んでいるか、上流か下流か、地域の特産品はあるかといった話しやすい話題から、それぞれが流域という視点で自分の暮らしを振り返ることを試みました。続く講義では、里域の活性化、森里海と人々の福利、持続可能性評価といった森里海連環の実現に向けた様々な課題とその研究成果について紹介しました。
 フィールドワークでは、究極の人為的自然である日本庭園と原生的な森林である芦生研究林を訪れ、自然とのつきあい方について考えました。南禅寺庭園(4月21日)では京都造形芸術大学の尼崎博正教授、芦生研究林(5月11-12日)では石原正恵研究林長にご支援いただきました。
 本講義の一部は、京都大学IPCCウィーク2019の連動イベントとしたため(4月16日の講義と4月21日のフィールドワーク)、参加した大学生は一般の聴講者と意見交換する機会を得て、普段の授業では得られない視点や考え方に触れることができました。森里海連環学の社会実装に向けた社会との対話の重要性を感じることができたのではないかと思います。
 最終回では、森里海の分断や再生について、これまで学んだことを整理することを目的に参加者同士が意見を交わしながら森里海連環を表現した1枚の地図を作成しました。本講義の成果を、森里海連環学教育研究ユニットで実施した高校生と森里海連環を学ぶイベント「森里海ラボ」のプログラムに反映することができました。様々な世代において森里海連環を考える教材ができ、今後の講義や社会連携でも応用できるのではないかと考えています。