ILASセミナー報告2019「森とレジリエンス」

森林育成学分野 教授 徳地 直子



 ILASセミナー「森とレジリエンス」では、森林生態系がさまざまなメカニズムを発達させ、持続可能な生態系を形成していく、このメカニズムの理解を通じて、発展的に人や社会における持続可能性について検討を加え、理解することを目的に実施しました。また、この講義では、ILASセミナー「森と海と人のつながり」と密接な関係をもち、座学での講義はそれぞれ行いますが、芦生研究林での実習は合同で開催しました。参加者は1回生3名、2回生1名、博士後期課程3回生1名の合計5名、また、学部は農学部3名、総合人間学部1名、人間・環境学研究科1名と多様性に富んだメンバーでの開催になりました。
 講義では、まずレジリエンスとは何かについて考えました。レジリエンスを一言で表す日本語はないようで、逆境にあってもしなやかに発展していく力のことをいうようです。昨今の(国土)強靭化がレジリエンスの訳とされていますが、だいぶニュアンスが違うなぁと皆で感じました。また、森のレジリエンス、人のレジリエンスはどのような要素によっているのか、何が大切なのかを考えました。多様な学生からなっていましたが、それぞれ積極的に意見を述べ合い、レジリエンスとは何かを考えたようでした。
 参加者自身がレジリエントな人になるにはどうしたらよいかという問いに対して、レジリエントに欠かせない要素である多様性、多様な考え方を身に着けるという方法があります。そこで、積極的に学内・学外でのイベントに参加を促しました。その一つとして、本講義の一部を京都大学IPCCウィーク2019の連動イベントとしたため(4月16日の講義と4月21日のフィールドワーク)、参加した大学生は一般の聴講者と意見交換する機会を得て、普段の授業では得られない視点や考え方に触れることができました。
 また、フィールドワークでも、「森と海と人のつながり」と同時開催で、究極の人為的自然である日本庭園と原生的な森林である芦生研究林を訪れ、自然とのつきあい方について考えました。南禅寺庭園(4月21日)では京都造形芸術大学の尼崎博正教授、芦生研究林(5月11-12日)では石原正恵研究林長にご支援いただきました。関西でも屈指の原生的な森林である芦生研究林のシカ食害を目の当たりにし、レジリエンスが失われている様を感じ、そのためにできること、防鹿柵の設置を体験し、人も森も周囲の支えが助けになることを感じたようでした。
 レジリエンスとは何か、をレジリエンスの高い芦生研究林に入って考えることを通じ、人と森の共通項、人と自然の近さを感じられた実習になったのではないかと思います。