基礎海洋生物学分野 教授 朝倉 彰
日本の国土を代表する豊かな森と多様性に富んだ海は,川で不可分につながり,「森が海を育み,海も森を育む」関係にある。しかし人類の経済効率最優先のふるまいによってこの連環は著しい影響を受け,森の破壊が海を著しく汚染している。沿岸域は海岸線を挟んで海と陸とがせめぎ合っている場所であり,そこに住む海の生物が形作る生態系には,陸域やそこに住む人間,また山から注ぎ込む川の影響が顕著である。
瀬戸臨海実験所は紀伊半島南西部に位置し,黒潮の影響から海洋生物の多様性が非常に高い。特に実験所北側に広がる田辺湾は,様々な底質環境が見られると共に,大小いくつかの川が注ぎ,田辺市・白浜町という小都市が面していて,河川の影響も大きい。そこで本実習は,こうした立地条件を生かして,河川から海にいたる様々な場所の生物とその環境条件を調べることによって,森里海と連環と生物の棲み分けについての理解をすることを目的とした。
新型コロナウイルスの感染拡大がおさまり警戒レベルが1まで落ちたので,人数を3人に絞り2021年3月25~29日に実施した。研究棟が全面改修中であったので特別研究室を使用し消毒用アルコール・検温器・実験台間仕切りを設置し換気や対人距離に留意しながらの実施とした。
野外の実習場所として,白浜町を流れる富田川の支流の高瀬川,内之浦干潟親水公園の泥干潟,番所崎海岸の岩礁を選びマクロベントスの採集を行い,実験室に持って帰って同定作業を行なった。河川から海洋にいたる環境条件の変化とそれにともなう生物相の変化について,議論を行った。
年報18号 2020年度実習報告