ポケゼミ報告2013「森を育て活かす-林業体験をとおして考える」

森林育成学分野 准教授 長谷川 尚史

 フィールド研が推進する森里海連環学は、環境性だけでなく社会性、経済性に関しても持続可能性を確立することを視野に入れた幅広い学問分野であると位置づけられている。日本の森林は、その5分の2にあたる1000万haが人工林化されており、これらの木材資源は化石燃料に変わる循環型資源として将来社会において重要なエネルギー・材料資源となることが期待される。しかし日本の林業は間伐遅れによる森林荒廃や過疎化など様々な問題を抱えており、新たなイノベーションが必要とされている段階にある。
 本セミナーでは植栽、下刈り、間伐、集材など、日本で伝統的に行われてきた林業作業を体験するとともに、最先端の林業の作業現場を見学し、また山村で暮らす人々と交流を行うことによって、森林と人間社会との関係を幅広い観点から議論することを目的に開講している。様々な専門分野で学ぼうとする学生に森林管理現場を体験することによってこれからの各専門分野における学習モチベーションを高めてもらうと同時に、将来的には森里海連環学の裾野を広げること、国内外の環境および社会に関する問題について森林国ならではの視点で捉えることができるような人材育成、さらには森林管理・利用における新たなイノベーションの展開を期待するものである。
 今年度は本セミナーの2回目として、8月6~9日の4日間,芦生研究林および周辺地域において開催した。参加学生は文学部1名、教育学部1名、経済学部1名、工学部3名、農学部2名の1回生、計8名であった。このほか、TAとして森林育成学分野院生2名が指導を補助した。2011年に開催した1回目のセミナーでは、3学部(法学部、工学部、農学部)からの参加であったが、本年は5学部から参加者が集まり、さらに多様な学生が集まった。
 初日午後に京都大学本部を出発し、食料等を購入した後、芦生研究林においてガイダンスおよび芦生研究林の概要に関する講義を行った。2日目は午前中に長治谷周辺のスギ天然生林を見学した後、芦生研究林枕谷において地拵えと植栽の実習を行った。植栽した苗木には、北白川試験地で育成されたウラジロガシを使用した。午後はウツロ谷においてシカによる食害の影響を観察し、サワ谷のスギ人工林において毎木調査を行った。夕食後、毎木調査データの整理と間伐木の選定、間伐前後の蓄積量算出および樹冠投影図の作成等の内業を行った。3日目は実際に間伐木の伐倒、造材、集材を行い、夕方には事務所構内にて、地域住民の方々との交流会を行った。お盆前で忙しい時期であったが、地元から4名の方が来て下さり、職員を交えて、昔の山での暮らしなど、貴重な話を聞くことができた。最終日は美山町北村において茅葺き集落および民俗資料館の見学を行い、日吉ダムビジターセンターで昼食を取った後、日吉町森林組合を訪問し、間伐作業現場において最新型ハーフクローラ式国産フォワーダおよびホイール式ハーベスタの見学を行った。またちょうど、新しく開発されたばかりの国産タワーヤーダの試験が行われており、この機械の見学もできた。
 レポートは実習終了後に個別提出とした。前回よりもさらに多様な学部からの参加者があったことで、それぞれの学生が異なる視点で実習を受講していたことがレポートから受け取れた。また学生同士が、お互いに異なる見方をしていることについて自主的に意見交換をしており、少人数セミナーのメリットが活かされた実習となったと考えている。
 当セミナーの開催にあたっては、芦生地区住民、民俗資料館、日吉町森林組合の皆様に多大なご協力をいただいたほか、芦生研究林・上賀茂試験地・北白川試験地職員にも協力していただいた。この場をお借りしてお礼申し上げる。