センター長 吉岡 崇仁
2009年に文部科学省の概算要求特別経費(プロジェクト分)に採択された「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」(略称:木文化プロジェクト)は、2014年3月に5年間の研究を終了しました。このプロジェクトは、京都府由良川流域と高知県仁淀川流域において、森から海に至るすべての生態系間の連環を対象とした森里海連環学研究を推進することが目的でした。プロジェクト期間中を通して、関連する地方自治体や地元住民の皆さまのご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。
研究期間を終えたいま、地域循環木文化社会の創出という目標は依然としてはるか遠くにあると感じています。しかしながら、プロジェクトの後半では、国産材に対する消費者の意識や森林所有者の所有森林に対する意識などについて社会調査を実施し、森林と人間の関係の一端を垣間見たように思います。成果の公表にはまだ時間がかかりますが、フィールド研創設以来10年にわたって取り組んできた森里海連環学をより具体的に提示できるよう今後も取り組んでいきたいと思います。
最終年度となった2013年度の主な取り組みは以下の通りです。8月24日に仁淀川町にて、住民ワークショップ「仁淀川町の未来を考える住民会議」を開催し、将来の森林流域と生活について約30名の地元住民の皆さんと討論しました。具体的な木文化社会像の創出には到りませんでしたが、「共感による他者の理解」と「専門家からの情報提供」が地元の将来像を住民自ら考えるために重要な要素であることが示唆されるなど、有意義な成果が得られました。また調査対象地において、地域連携講座を開催し(高知県仁淀川町:11月10日、京都府京丹波町:12月7日)、それぞれプロジェクトの成果を地元住民の皆さんにご紹介しました。また、11月26~28日には、フィールド研と森里海連環学教育ユニットとの共催で開催された国際シンポジウム「International Symposium on Connectivity of Hills, Humans and Oceans(CoHHO): Integrated ecosystem management from Hill to Ocean」において、11件の成果を発表しました。プロジェクト最後の取り組みとなった最終報告会は、2014年3月5~6日に開催しました。発表のテーマは多岐にわたり、人工林の間伐に関するもの10件、シカ食害3件、渓流・河川水質8件、河口沿岸域の生物生産6件、木材流通2件、意識調査3件の計32件の報告があり、5年間に得られた成果に基づいて討議されました。間伐が及ぼす森林樹木と下層植生への影響や土壌栄養塩動態の応答、さらには渓流水質への影響について、多くの知見が得られています。より広域の河川水質に関しても、精力的な流域調査が実施され、流域の土地利用・土地被覆との関係が明らかとなってきました。また、沿岸海洋における生物生産にとって必須栄養元素である溶存鉄の動態に関しては、由良川流域において精査されるとともに、海洋植物プランクトンの生育に及ぼす溶存鉄と腐植物質の効果に関する研究が実施されました。自然科学における森里海連環学研究の一つのあり方を示すことができたと考えています。一方、社会調査に関しては、2度の意識調査が実施され、国産材に対する消費者の意識と森林所有者が森林に対して抱いている意識の解析が行われました。それぞれ、興味深い結果が得られており、今後、成果公表していきたいと思います。
ニュースレター33号 2014年6月 研究ノート