実習報告2014 「森里海連環学実習 I (芦生研究林-由良川-丹後海-舞鶴水産実験所 コース)」

里海生態保全学分野 教授 山下 洋


 京都府の北部を流れる由良川は、京都大学芦生研究林を源流とし若狭湾西部の丹後海に注ぐ。本実習では、森林域、里域、農地、都市などの陸域の環境が、由良川の水質、生物多様性、沿岸域の生物環境にどのような影響を与えているかを分析し、川を通した森から海までを生態系の複合ユニットとして、科学的に捉える視点を育成することを目的としている。今年度は8月7日(木)~11日(月)に実施し、16名(本学7名;農学部2名、理学部2名、総合人間学部2名、医学部1名、他大学9名;北海道大学1名、東京農業大学1名、名古屋工業大学1名、名城大学2名、高知大学2名、島根大学1名、九州大学1名)の学生が参加した。
 芦生研究林における森林構造と生態系、鹿による食害の影響やナラ枯れ被害木の観察、由良川に沿って源流域から美山、和知、綾部、福知山を経由して丹後海に注ぐ河口域までの水質(水温、塩分、電気伝導度、溶存酸素、COD、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、リン酸態リン、珪酸、懸濁物質)調査、魚類、水生昆虫、プランクトン、底生動物などの水生生物の採集調査および土地利用様式の調査を行う予定であった。しかし、台風11号が近づいていたことから、予定を変更して芦生研究林内での調査及び宿泊を取りやめ、芦生研究林に到着した8月7日午後からすぐに河川調査に取りかかった。芦生研究林内の源流(研究林事務室前)、農業地帯を流れる犀川、市街地を流れ下水処理場排水が流入する和久川、および河川横断構造物の影響を見るための大野ダム湖内とその下流の和知において調査を行い、流域の土地利用やダムが、河川水質と水生生物の群集構造にどのような影響を与えているかを調査した。平成22年度からオートアナライザーを用いた精度の高い栄養塩分析を行っており、全調査点の試水中の溶存態リン、窒素、ケイ素濃度のデータを用いて、精密な水質データ解析を行った。また、全調査点でプランクトンネット採集を行い、支流ごとに流域環境に応じてプランクトンの組成が異なること、海水の遡上に対応して生物相が明瞭に変化することなどが分かった。
 2年前までは、班ごとに自由に研究テーマを決める方法でデータのとりまとめを行っていたが、テーマの決定に時間がかかり分析時間が不足がちであったことから、昨年度以降各班にあらかじめテーマ(プランクトン・粒子、ベントス、魚類、水質)を与えた。また、標本分析とデータ処理のための時間を増やすことにより、参加学生がじっくりとデータを解析しレポートを作成できるよう配慮した。