温帯域に生息するイシサンゴ類の生態・進化について

海洋生物進化形態学分野 深見裕伸

 九州以北の温帯域と呼ばれる黒潮流域および対馬暖流域には、50-100種以上のイシサンゴ類が生息している。北限は、太平洋で千葉県、日本海では壱岐になる。ただし、1-2種は舞鶴や佐渡島にも生息している。これらの温帯域のイシサンゴ類は、これまで黒潮によって沖縄で生まれた幼生が流れ着いたものであると考えられてきたこともあり、温帯域のサンゴを研究する人がほとんどいなかった。そのような状況で、私は研究を始めたのだが、温帯域のサンゴのなんと興味深いこと!これまで、ほとんど研究されていなかったこともあって、私にとって宝の山のように見えたものである。現在までの調査で、温帯域は、実に多くの温帯に特化した種があり、またサンゴの進化を知る上で重要な地域であること明らかとなってきた。以下に、簡単にこれまで分かってきたことを紹介する。まず、和歌山県の白浜周辺には約70種ものイシサンゴ類が生息している。そのなかで、優占種であるミドリイシ属サンゴ(院生の鈴木君が担当)とキクメイシ科のサンゴ、および温帯域に生息するサンゴの共生藻(院生のリエンさんが担当)に絞って現在研究を進めている。まず、ミドリイシとキクメイシで、これら温帯に生息している種と沖縄で同種と思われている種との間で遺伝的系統関係の比較を行った。結果、ミドリイシでは、単一種であっても過去に温帯域で隔離された群集と、現在沖縄方面から移入している群集が存在することが明らかとなった。一方、キクメイシ類では、ミドリイシほど移入が起こっておらず、温帯に生息している多くの種が温帯特異種である可能性が示された。また、共生藻の研究では、温帯のサンゴは低水温に特化した共生藻を保有していると考えられていたのだが、実際は沖縄のものと同じでサンゴ自体が低水温に特化していることが分かってきた。だた、温帯特異的な共生藻も見つかっており、今後が楽しみである。他にも、面白い結果も出ているのだが、それはまたの機会に。最近は、地球温暖化ということもあり、サンゴでも、温帯域でこれまで観察されていなかった熱帯種が報告されてきている。そういう意味でも、これまで日の目を見なかった温帯域でのサンゴ研究はこれから注目されていくのではないかとひそかに期待している。

ニュースレター13号 2008年3月 研究ノート