芦生研究林の夏期の動向

芦生研究林長 伊勢 武史

 芦生研究林は、京都大学のみならず全国の大学に開かれており、利用を促進するためのさまざまな企画を実施しています。この夏は、多彩な活動に彩られました。7月31日には京都大学の山極総長・佐藤理事・清木理事が芦生研究林を訪問しました。到着後は、まずは宿泊棟の食堂で、林長から芦生研究林についてのレクチャーです。教育・研究活動や今後の運営方針について、有意義な議論を行うことができました。続いて、構内の宿泊施設・講義室・事務所棟などの視察です。年季の入った施設をどのようにメンテナンスしながら活用しているか、技術職員から熱心に説明しました。マイクロバスに乗り換えて、芦生研究林の核心部である、上谷の天然林エリアへ。長治谷の林道終点で地元食材を中心とした弁当を食べてから、農学研究科の高柳講師の案内で上谷を進みます。シカの食害やササの一斉開花、ナラ枯れなど、芦生の生態系はダイナミックに変動しています。これをいかに科学的にとらえて知見を集積し、保全などに活用しているかを紹介します。その後、大規模シカ防除柵実験区へ移動し、シカの食害を人工的に排除した場合に生まれる生態系を目に焼き付けました。最後は記念撮影。京都大学の貴重な財産として、そして「おもろい研究」のできる場所として、どんどん活用してもらいたいと思います。
 芦生研究林の特徴として、原生的な天然林の観察ができること、動植物相が非常に豊富であることなどがあげられます。今年度も芦生研究林を利用した様々な実習やポケゼミが実施されました。森里海連環学実習I(芦生研究林-由良川-丹後海コース)は、8月6日から10日の日程で、京大から10名、他大学から9名の学生が参加し、実施されました。この実習は、芦生研究林内の渓流と森林の観察、由良川に沿って上流域から河口域までの水質調査、水生生物調査、土地利用様式の調査を行い、森林域、里域、農地、都市などの陸域の環境が、由良川の水質、生物多様性、食物構造などにどのような影響を与えているかを観察し、森から海までの流域を複合したひとつの生態系として捉える視点を育成することを目的としています。初日の6日午後は芦生研究林の上谷で実習を行い、2日目の7日午前は、構内を流れる由良川で実習を行いました。今年度から教育関係共同利用拠点に認定されたこともあり、今後は他大学の教育研究利用を促進していきたいと考えています。
 さらに、5月には芦生研究林教育研究利用説明会と現地ツアー、9月には芦生研究交流セミナーを実施しました。芦生研究林は自然科学だけではなくあらゆる学問に門戸が開かれています。そのことを広く知ってもらい、様々な分野からの利用を促進するための現地ツアーでは、生態学から芸術にまでおよぶ様々な専門分野から合計31名の参加があり、今後の利用につながることが期待されます。芦生研究交流セミナーは今回が初めての試みで、2日間のセミナーに京大内外の研究者や学生が合計23名参加し、芦生研究林での研究についての発表とディスカッションが行われました。多彩な分野からの参加による、これまでの研究成果や今後の計画などについての情報交換があり、盛会のうちに終了しました。

ニュースレター37号 2015年11月 教育ノート