ポケゼミ報告2015「里海~瀬戸内海であそぶ~」

海洋生物環境学分野 助教 小林志保

 この少人数セミナーは河口・沿岸域の環境とそこに生息する生物に対する理解を深めることを目的として行うもので、北部構内での講義(観測計画作成を含む)、瀬戸内海での生物採取と環境観測、生物のソーティングとレポート作成とで構成される。開講から終了までの期間を通して、経済学部2名、農学部3名の合計5名(男性4名、女性1名)が参加した。また生物採取とソーティングには、海洋生物環境学分野の大学院生2名がTAとして参加した。 
 4月から5月にかけて、北部構内で沿岸域の食物連鎖と環境に関する講義および観測計画に関する話し合いを行った。公共交通機関を用いてアクセスできること、現場の安全性、地曳網を用いた生物採取が可能であることなどを考慮して、兵庫県芦屋市の芦屋川河口を調査場所として選定し、特別採捕許可を申請した。参加者の予定に合わせて6月の土曜日に調査日を設定し、各自現地に集合して調査を開始した。調査日前後は雨天の日も多かったが、当日はくもり時々晴れの天気で、気温も高すぎず低すぎず、体力を大きく消耗することなく作業に向かうことができた。はじめに水温・塩分を測定し、底質を調べた。次にドライスーツや胴長をそれぞれ身につけ、間口約5mの地曳網の両端を2人で持ち、沖から岸に向かって曳網する作業を計5回行った。足元の見えない海の中で、抵抗の大きな網を曳いて歩くのは見た目より大変だと口々に話しながら、一人ずつ網を持つのを楽しみにしていた。網を岸まで引いて中身をバケツにあけ、バットに移して落ち葉や海藻くずをよけると、1cm~6cmの大きさの魚がたくさんいて、歓声が上がった。最後にTAの大学院生がソリネットによる底生生物の採取を行い、サンプルを観測点ごとに容器に入れて大学に持ち帰った。
 観測後から7月にかけて、サンプルのソーティングを行った。最も採取個体数の多かった地点では、スズキ47個体、アシシロハゼ138個体、ヒメハゼ7個体、ボラ3個体、クロダイ1個体が採取された。最も採取個体数の少なかった地点でも、スズキ2個体、アシシロハゼ10個体、ヒメハゼ2個体が採取された。またソリネットでは、ヨコエビ類、多毛類、カイアシ類、ゾエアが採取され、地点あたりの推定生物量は10mg/m2に上った。個体数等の確認はしていないが、海岸部では多数のカニ、エビ、貝類が動き回っており、鳥類も多く観察された。工場に囲まれた都市部の河口域において行なったサンプリングであったが、多くの生物を採取、観察することができ、観測後の生物サンプル分析、解析も充実したものになった。
 最後の授業では5人の実習生が作成したレポートをそれぞれ発表して議論を行った。5人から5通りの視点による考察が出され、互いによい刺激となった。なお、本セミナーは優秀な2人の大学院生によるアシスタンスと、関係者の皆様の支えによって成立したものであり、この場をお借りして心から御礼申し上げます。